ガイノイドにベストを着せ掛けた瞬間、両肩に触れたバトーの手。
この義体から伝えられた接触の信号に一つの記憶が蘇った。
「変わらないわね」
かつて少佐と呼ばれた義体のなかにいたときにも、貴方は同じことをしてくれたわね。
貴方の手も、私の体も、すべて作り物。
かつての私は作り物同士が触れ合っても何も生み出すはずがないと思っていた。
でも、それは間違っていた。
一瞬の接触を伝える信号。
それがこんなにも懐かしく思えるなんて。
あれ以来、幾つかのゴーストと融合をした。私の元の人格などどれほど残っているのかわからない。
それでも、私は感じる。
「バトー、忘れないで」
貴方が私を送り出してくれたから、そして、貴方が貴方のままでそこに留まっていてくれるから、私は私でいられるの。
「必ず傍に居る」
貴方が望んだかたちとは違うかもしれないけれど。
今ならはっきりと言える。
私は貴方を愛してる。
ゴーストの抜けた人形が床に転がる。
バトーは怯えてしがみつく少女の体をそっと引き剥がし、人形の傍に膝をついた。
人形の肘を掴んで上体を起こし、ゆっくりとベストを脱がす。そして、裸になった人形を静かに横たえるとベストに袖を通した。
ベストが胸を覆った瞬間、心臓が大きく脈打つのを感じてバトーは動きを止めた。
残り香も、温もりもない、ただの着慣れたベストなのに。
そこにいた彼女を包み込んだという、ただそれだけでこんなにも胸が痛む。
「勝手なことばかり言いやがって」
バトーは人形にではなく、自分が着ているベストに向かって呟いた。
俺は変われない。
たとえ作り物だとわかっていても、そこにいるのは俺の惚れた女だから。その身体を人目に晒すなんて耐えられない。
お前が草薙素子であったとき、お前の声、仕草、表情がどれほど愛しかったか。背中を守れることがどれほど誇らしかったか。
なのにお前は、俺が欲しいものをすべて捨てて去った。
それでもなお、お前という存在そのもので俺を縛り続ける。
感じていたさ、ネットに接続するたびに、縫い留められた一本の絹糸のような微かな気配を、いつも。
傍にいてくれるよりも、一目会いたい。
そんな俺の願いを叶えてくれたことも。
「追い続けてやるよ、何処までも」
バトーは己れの右手で自分の左肩を握り締めた。
手の中でカーキのベストは皺くちゃになった。
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