「レモン絞って、熱いうちに、食べてみろ。」
「いただきます。なんか、不思議な香りがする。」
「うん、うまい。」
「おいしい、こんなの初めて。」
「鮎はやっぱりシンプルに塩焼きが一番だな、ここのは天然ものだし。」
「すごく脂がのってるのに、全然しつこくない。」
「鮎漁は7月1日から解禁になる。養殖もあるけど、天然ものとは味が比べ物にならないんだ。」
「へぇ。」
「鮎は他の川魚と違って、苔しか食べないんだ。だから独特の香りがあって、このはらわたまで全部食えるんだぜ。ちょっと、食ってみろよ。」
「苦い。」
「これが、毎年食べてると、うまくなるんだって。」
「そうなの?初めて食べるからわかんないけど。」
「で、鮎にあう酒といえば、やっぱり日本酒、冷だな。」
「すっと飲める。さわやかな味」
「フルーティーで飲みやすいだろ。夏はこれが楽しみでなぁ。」
「本当に、食べるの好きなんだ」
「ああ。料理もするぜ。」
「え?」
「忙しいときはコンビニとかで済ますけどな、休みのときは作るぜ。大体、和食だな。魚料理とか。」
「意外。」
「桐子、お前、料理できんの?」
「残念ながら、ひととおりできるわよ。一人暮らしで自炊は不経済だから、今はやんないけど。」
「魚、おろせるか?」
「あー、それは駄目。生臭いの駄目なの。匂いの強いのも。」
「それで料理できるとか言うな。」


「この冷やしトマト、おいしい。」
「きゅうりもうまいだろ。」
「いつも食べてるのと、全然違う。なんで?」
「そりゃ、お前、手のかけ方が全然違うもの。」
「ふーん。」
「なんだよ?」
「目の輝きが違う。」
「実はさ、俺、料理人になりたかったんだ。」
「ええ?」
「高校生の時に大学行かないで、修業するって言ったんだけどさ、親に反対されて、大学だけは行っとけって言われて。」
「それで、東大入る?普通。でも、料理人、似合うかも。なんか、おかしー。」


「お前、休みの日とか、何やってんの?」
「最近は部屋の片付け。引っ越したの。前住んでたところ、っても、病院にいる時間の方が長かったから、ほとんど暮らしてはいなかったんだけど、そこは引き払って、新しく、本庁の近くにマンション借りた。」
「間取りは?」
「1LDK。一人だから、これで十分。持ち物もそんなないしね。このあいだ、カーテン買った。」
「カーテン?」
「うん、別にインテリアとか凝る趣味はないんだけど、カーテンだけは、良く眠れるのがいいなぁと思って探してて、ようやくちょうどいいのが見つかったから。」
「どんなの?」
「深いブルーの遮光カーテン。カーテンひくと、部屋の中がほのかに青くなって、海のそこにいるみたいになる。昔、なんかの本で読んだんだけどね。それをやってみたくて。」
「それって、吉本ばなな、じゃないか?」
「吉本ばななとか、読むの?」
「小説は割となんでも読む。吉本ばななは人から借りた。」
「・・・その借りた人って、女の人でしょう。」
「・・・・・・」


「彼女、いるの?」
「一年前に別れてから、ずっとフリーだ。」
「あら。」
「・・・お前は?」
「蓮見の愛人。身体だけのお付き合い。」
「それは嘘だろ?」
「・・・どうして、そう思うの?」
「付き合ってる男と女には、どんなに隠しても見える空気って奴がある。お前と管理官の間にはそれはなかった。」
「でも、この数年、私の一番近くにいたのは、あの人だった。」
「よくわからん。お前たちどういう関係だったんだ?」
「強いて言えば、同じ殻の中に閉じこもっていた、親鳥と雛かな。」
「ますますわからん。」
「いいのよ、わからなくて」


「そういえば、お前、この前、こっち来たんだって?白砂から聞いたぞ。」
「ああ、ちょっと近くに用があって。白砂さん、元気になったのね。復帰したばっかりだって?」
「ああ、まったく、タフな奴だよ。白砂が復帰して、これで全員元気になったからな、打ち上げ、やるか?俺と白砂とお前と優作で。」
「いいね。」


「日本酒がこんなにおいしいなんて、初めて知ったわ。」
「顔、赤くなってる。」
「こんなに飲んだの初めて。ちょっと、酔ったかな。」
「・・・・・・」
「何?」
「そういうとこ、普段でも、もっと見せろよ。」
「仕事中にそんなことできるわけないでしょう。」
「・・・かわいいのに。」
「え?」
「・・・あ。」
「もっぺん言って。」
「・・・二度も言えるか。」
「言いなさいよ。」
「お前、完璧に酔ってるだろう。」
「酔ってないってば。」


「表通りまで出れば、タクシー拾えるから。」
「うん。」
「大丈夫か?うちまで送るか?」
「・・・送り狼?」
「ばーか、心配してんだよ。」
「うん、平気。すごくきもちいいー・・・あ・・」
「・・・こら、言ったそばから、お前は。」
「・・・熱い。」
「・・・酒のせいだろ。」
「・・・うん。」
「タクシー、来たぞ。」
「・・・うん。今日はありがとう、すごくおいしかった。」
「じゃあ、またな。」
「また。」


>TOP