潮が引くように遠ざかる眠りの闇。
覚醒していく意識がとらえたのはかすかに発光する深い紺色。それがカーテンだと認識するまでさほど時間はかからなかった。

夜はいまだ明けずとも、太陽は水平線に近づいただけで闇を薄める。厚い布地越しにも伝わるかすかな光が照らしだす、隣で眠る男の顔を好きだと思った。

柔らかな光を放つ、黒曜石を削りだしたかのような輪郭。日の光の似合うエネルギーの塊みたいな男だけれど、この時だけは闇に染まった自分が触れてもいいような気がするから。



「いつか見に行きたいなぁ」

テレビが映し出したのは、イタリアの古い町。360度開けた建物も山もない土地で、西に沈んでゆく太陽と東から昇っていく満月の両方を捉えた映像。

「トワイライトが太陽と月の二つの光がある時間帯のことだなんて、初めて知ったわ」

「太陽と満月が同時に空にあるなんて、ありえるんだ」

そう言いながら吐き出された、貴方の言葉を首筋に感じながら思った。


ありえるなんて、言わないで。



私たちはが今こうしているのは貴方が無理をしてるからで、正しい軌道に戻れば二人の道が重なるなんてあるはすがない。そう思っていた、なのに。

目覚めないように、聞こえないように願いながら閉じた瞼に囁く。
「もう見せてもらったわ」
ありえないはずの奇跡を。

だから、苦しまないで、痛まないで、どうか貴方の道へ戻って、無力さに私が潰れてしまう前に。


永遠よりも貴方といられた、一瞬があればいい。





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