乳酸とトレーニング

 

1.乳酸とは・・・

   乳酸とは、運動のエネルギーとして糖が使われる時産生される物質である。

  乳酸は、その名の通り、「酸」であるから、血液中に多くが蓄積されれば、血液が酸性に傾き、筋肉の動きを阻害する。それ故、乳酸=疲労物質という定義が一人歩きしている。

 

   しかし、乳酸は産生されるとそのまま血液中にとどまる物ではなく、ミトコンドリアで酸化され、エネルギー源として、再利用されるものである。

   安静時や、運動強度が高くない時には、乳酸は産生されると同時に、酸化されエネルギーとして利用されるので、血中乳酸は増加することなく、平常状態を保っている。

  安静時の血中乳酸濃度は0.52.0mmol程度である。

   運動強度がある一定レベルを超えると、酸化が追いつかなくなり、血中乳酸が溜まっていくようになる。そして、急激に増加した乳酸により、筋活動が困難になってしまう。

  その、乳酸の増加し始める限界点をLT(乳酸性作業閾値)という。

   乳酸は、FT線維を主体とする速筋のグリコーゲンから作られ、ST線維を主体とする遅筋で酸化される。

   400m走のような1分程度の全力走は血中乳酸濃度を20mmol程度まで上げる。

  そのような激しい運動後、何もしないでいると、血中乳酸濃度が安静レベルに戻るのに30分〜1時間を要する。しかし、軽い運動を行うことで血流量が維持され、乳酸の酸化が促進されエネルギーとして利用される為、乳酸除去を早めることができる。

 

 

2.LT(乳酸性作業閾値)

                      

  50〜70%VO2max程度の運動であれば、血中乳酸濃度は2〜3mmol程度で、それ以上増加することはない。   
  しかし、運動強度を上げていくと急激に血中乳酸濃度が上昇するようになり、3〜

4mmol程度を境にカーブが急上昇する。  この限界点をLT(乳酸性作業閾値) という。                 

                               

             図
1 運動強度と血中乳酸濃度

 

 

(1)LTは持久能力の指標

  VO2maxは最大酸素摂取量というように、最大努力時の値である。

 しかし、マラソンなどの持久的運動は、それよりも低いレベルの運動であり、実際には

LTから少し上くらいのレベルの運動である。

 よって、持久力を見る上では、VO2maxよりも、LTの方がふさわしい。

 

 

(2)LTレベルを向上させるには

  乳酸の酸化能力はミトコンドリアの数が大きく影響する。ミトコンドリアを増やすことがLTレベルを向上させることにつながり、そのためには持久的トレーニングが必要となる。

 

 (持久トレーニングの効果)

  @乳酸の酸化量の増大。

   毛細血管が増え、ミトコンドリアも増大することで、結果的に乳酸の参加量が増大する。

 

  A乳酸の産生量が減る

   乳酸の酸化能力が上がることで、脂肪を使って参加できるので、糖を利用しなくて済むようになる。その結果、乳酸の産生も減る。

 

  B上記@Aの理由からLTが向上する。

  

                    図2  持久的トレーニングによるLTの変化

 

3.スプリントトレーニングと血中乳酸

 

 高強度のトレーニングを行うと、糖がエネルギーとして使われ、乳酸が産生される。乳酸が産生されると、筋の内部は酸性になる。酸性に傾くと、筋は活動を阻害されてしまうので、それを防ごうとする働きが備わっており、それが酸を中和する緩衝能力である。

 

 スプリントトレーニングをしていると、この緩衝能力が高まり、より多くの乳酸が産生されてもトレーニングが続けられるようになる。その結果、更に乳酸産生量が増加する。

→これは一見、疲労物質を増やすというマイナスの要因のように思われるが、そうではなく、より強度の高い運動を行う能力が向上するということである。乳酸が多く作られるということは、それだけ強度の高い運動を行っているということであり、逆に考えると、乳酸を多く作れないということは、それだけ強度の低い運動しか行えないということなのである。

 

 また、乳酸が多く作られる状態を続けていると、乳酸の除去能力も高まり、結果として

LTを向上させることにもつながる。要するに、スプリントトレーニングによっても、乳酸の酸化能力は向上するということである。

 

4.まとめ

 

@     乳酸は単なる疲労物質ではなく、ミトコンドリアで酸化されエネルギーとして再利用される。

A     持久力を向上させるには、LTのレベルを向上させることが大切である。

B     持久的トレーニングでは、乳酸を作らない能力を向上させ、また乳酸の酸化能力を向上させることができ、その結果LTが向上する。

C     高強度のトレーニングは、より多くの乳酸を産生するが、トレーニング効果により、乳酸に対する緩衝能力が高まる。その結果、より高いレベルでの運動が可能となり、持久力も高まる。

D     高強度のトレーニングにより、乳酸産生の能力も高まり、その結果、より高いスピード、より高いパワーを生み出すことができる可能性がある。

E     結局、競技力を向上させるには、乳酸の産生能力と除去能力の両方を向上させることが必要であり、その為には、LTレベルのトレーニングと、高強度でのトレーニングのどちらも大切で、双方をうまく織り交ぜながらトレーニングすることが大切である。

F     但し、高齢者や健康の為に運動を行う人の場合には、LTを超えるような強度の高い運動は控え、LTレベルあるいはそれより少し低めの運動が適している。

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