2−5−3−1 地方分権からみた自治体訴訟法務に対する国家行政関与法制(法務大臣権限法)の評価
田中孝男
2001年5月3日、枝番号のついた注を付記。拙・改訂版もご覧いただいて本テーマについてすぐれた論文を出された鈴木庸夫・千葉大学教授の議論を踏まえ、今後の記述の補正に向け、準備。
2008.10、本稿をさらに発展させた「自治体の訴訟組織法制の再構築」『法政研究(九州大学)』75巻2号(2008年)255-333頁を発表しました。本テーマに関しては、この法政研究論文をもって、少しの間、検討を休止します。
目次
第一 本稿の目的と手法
第二 権限法の法制評価
第三 総括評価と法政策上の提言
第四 自治体訴訟法務組織法の課題
一 本稿の意義・対象、研究上の位置づけ等
本稿は、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等にかんする法律(昭和22年法律194号。以下「権限法」という。)による、地方分権改革後の自治体訴訟法務に対する国(の行政機関)の関与法制を評価することにより、自治体の政策法務としての訴訟法務の充実さらには地方自治の確立に貢献することを目的として著すものである。
本稿は、地方自治法、特に、自治体と国との関係ないし国の自治体に対する関与論・関与法制研究に属する。さらに、政策法務(自治体訴訟法務)や法制評価論、行政争訟法、行政組織法にも交錯する。
現時点で、旧自治法下の関与法制研究(注1)、権限法そのものの研究(注2)あるいは地方分権改革後の地方自治法における関与法制の研究(注3)、実務家による分権改革後の権限法解説は見られるが、本稿のように権限法という個別法の関与法制面からの研究は乏しい(注4)。それゆえ本稿は、既存の行政法学・地方自治法学にも一定の意義を有するのではないかと考える。
なお、本稿では、いわゆる地方分権一括法(以下「一括法」という。)による改正後の法制度に基づき論を進めるが同法による改正前の各法律の条文を引用するときは、その題名(略称を含む。)に「旧」と冠することとする。また、地方自治法は、「自治法」と略する。
また、本稿は、私見のみで構成されている。
(注1)塩野宏「地方公共団体に対する国家関与の法律問題」同『国と地方公共団体』(有斐閣、1990年。論文初出は1966年)44頁以下、木佐茂男「国と地方公共団体の関係」雄川一郎・塩野宏・園部逸夫(編)『現代行政法体系第8巻地方自治』(有斐閣、1984年)381頁以下。
(注2)木佐茂男「訟務制度にみる公共性と法治主義(一)(二・完)」北大法学論集41巻5・6合併号2407頁以下、42巻1号105頁以下。また、筆者と問題意識は全く共有していないが、古屋等「行政訴訟の現代的課題と訟務制度−−公益保護を果たす訴訟上の機能をめぐる問題」日本大学法学紀要34号(1992年)477〜519頁がある。
(注3)推進委員会勧告、計画、法案の各時点のものも含め文献はおびただしいが、成立した新法の解釈になり得るものでは差し当たり白藤博行「地方公共団体に対する国の関与の法律問題」財団法人地方自治総合研究所『地方分権の法制度改革』(1999年)29頁以下。
(注4)分権改革前の権限法については、国側の立場から見た自治体向け制度解説として、訟務実務研究会「地方公共団体の争訟と法務局の関与について」判例地方自治9号(1985年)106頁以下がある。また、分権改革後の国側の立場から見た自治体向け制度解説として、藤部富美男「第1号法定受託事務に係る訴訟と法務大臣権限法による法務大臣の関与」月刊地方分権2000年3月号50頁以下がある。なお、(財)日本都市センター『分権型社会における自治体法務』(2001年)101頁〜106頁において、「改正後の法務大臣権限法に基づく「指示」制度の問題点」と題した研究が提示されている(執筆者:鈴木庸夫)。
二 法制評価の手法
法制評価の意義・手法は確立していないが、本稿では、これを対象となる法制について@目的、A内容、B条文表現・法制技術、C法運用の四段階に分け、段階別に評価基準を設けて評価することと考える(注5)。
そして本稿では、まず、自治体訴訟法務関与法制の評価の各段階共通の基準として、自治体訴訟法務の地方自治権上の位置づけを考える。
自治体やその行政庁が当事者や参加人となる訴訟は、法令制定そのものを原因とする損害賠償請求訴訟(本稿では、国家賠償と民事賠償を区別せず「損害賠償」に統一する。)などの稀な例を除き、法令に基づく自治体の活動の結果、相手方住民等との間に生ずる法的紛争に起因する。そこで、自治体訴訟法務は、行政執行の結果生じたもので、それ自体が行政執行の一部であるといえる。また、自治体の行政執行は、憲法で保障された地方自治権としての団体自治の構成要素である自治行政権を行使するものであり、自治行政権は自治体の自主的な法の解釈・適用権(兼子仁氏のいう法解釈自治権(注6))をその本質的な内容とする(注7)。
訴訟における自治体及びその行政庁の側の主張・立証活動も、こうした自治行政権・自主的法解釈権の行使の一形態として観念できる。このため、国の行政機関による自治体訴訟法務への関与・干渉は、常に自治権侵害問題をはらむものといえる。この問題については、自治法において一般的な原則規定(245条の2、245条の3第1項及び第2項)があるが抽象的であり、個々の関係法令の法制評価に当たっては、さらに具体的な評価基準の設定が必要となる。
そこで具体的段階別の法制評価にあっては、まず、@目的段階では、評価対象法制の目的が、立法事実(立法の基礎にあってその立法目的及び目的達成の手段の合理性を支える社会的・経済的・文化的な一般的事実(注8))に照らして妥当かが審査される。国の自治体訴訟法務への関与法制の立法目的が、立法事実として自治行政権への干渉・侵害をどの程度まで許容し得るかが、本稿でのポイントとなる。
第二に、A内容段階では、当該法制の内容がその目的達成にとって、立法事実に照らして適切・合理的かどうかという点が評価される。具体的評価に当たって本稿では、自治法245条の3第1項(関与の比例原則)の規定を具体化するよう、「目的段階では認められた自治権への干渉・侵害について避け得る他の手段があるときは、当該他の手段を法制上採用すべきである」との基準を設定し、関係法制を審査する。
第三に、B条文表現(法制技術)の段階では、内容を的確に表す表現かどうか、条文が分かりやすいかが評価のポイントとなる。「行政側の裁量の余地が少ない」、「解釈に紛れがない」が、この段階の評価基準である。それゆえ、本稿では解釈論上の問題点もここで扱う。
C法運用評価の段階では、法の運用状況が、結果として当該法制の目的を達したか及び本テーマの場合自治権に対し不当に干渉・関与していないかという基準で評価する。なお、自治体訴訟法務の現状の全貌を詳細に調査した文献は存在しない(注9)ので、本稿では法運用評価を行わない。
(注5)本手法につき拙稿「分権時代の法制評価を考える」月刊地方自治職員研修1999年3月号44頁以下参照。
(注6)兼子仁『行政法学』(岩波書店、1997年)252頁。
(注7)木佐茂男(編)『自治体法務入門』(ぎょうせい、1998年)31頁。
(注8)芦部信喜『憲法学U人権総論』(有斐閣、1994年)202頁〜203頁。
(注9)概略的な全体調査としてほぼ唯一の文献に、札幌地方自治法研究会(代表:木佐茂男)「自治体法務の現場から」判例地方自治105号(1993年)10頁以下(訴訟法務については27〜32頁)がある。
一 権限法の概説
権限法の全10箇条の条文のうち、自治体訴訟法務に対し重要な関与法制を構成する4つの規定がある。2条3項、4条、6条の2及び7条である。これらのうち、4条(法務大臣が、国の利害又は公共の福祉に重大な関係のある訴訟において、裁判所に対して意見を述べ、所部の職員に意見を述べさせられるとする規定)は、1962年の権限法改正による7条の創設等により関与法制としては実質的に無意味なものとなっている(注10)とされているので、ここでは、そのほかの規定について概観するともに、以下では4条の評価は行わない。
(注10)前掲注2・木佐論文(一)2430頁。ただし、いわゆる森林法共有林分割規定違憲判決(最高裁昭和62年4月22日大法廷判決)の訴訟で,国(法務省)が最高裁判所に森林法第186条を合憲とする意見書を提出した例がある(戸松秀典『憲法訴訟』有斐閣、2000年、94頁。戸松が法務省訟務局に問い合わせたところによれば、この例の記録はないとのことである。同頁脚注18)参照)。
(一)国の訴訟法務への自治体職員の引込み
国が当事者又は参加人になる訴訟の争点が自治体の第1号法定受託事務の処理にかんするものである場合(例、都道府県が管理する国道や河川の設置管理に瑕疵があるとして国に損害賠償請求訴訟が提起された場合〜国家賠償法3条1項参照)、法務大臣は、特に必要があると認めるときは、その事務を処理する自治体の意見を聴いた上、当該自治体の指名する職員の中から指定する者に当該訴訟を行わせることができる。指定された者は、その訴訟につき法務大臣の指示を受ける(2条3項)。一括法の権限法改正により創設された規定である。なお、本項により自治体がする事務のうち職員に係るものは、第1号法定受託事務である(10条)。
(二)法定受託事務に係る自治体訴訟法務への法務大臣の関与
第6条の2は、一括法により創設された。
自治体の行政庁を当事者とする第1号法定受託事務にかんする訴訟が提起されたとき、当該自治体は、法務大臣に対し、直ちに、その旨を報告しなければならない(1項)。訴訟に参加する場合においてその争点が第1号法定受託事務の処理にかんするものであるときも、事前に法務大臣に、その旨を報告しなければならない(2項)。これらの報告事務は、第1号法定受託事務である(10条)。なお、当該訴訟法務の遂行自体も、当然に第1号法定受託事務になるものと解される(注11)。
そして、これらの訴訟に係る事務について法務大臣は、助言、勧告、資料提出要求及び指示の関与権限を有する(3項本文)。指示は、法務大臣が国の利害を考慮して必要があると認める場合に限る(同項ただし書)。この指示としては、とくに、敗訴等自治体にとって不利益な裁判があった場合の上訴の要否が、典型事例として想定されている(注12)。
また、これらの訴訟について、法務大臣は、国の利害を考慮して必要があると認めるときは、その自治体の長に協議して、所部職員を指定代理人にし、又は訴訟代理人に選任する弁護士にその訴訟を行わせることができる(4項)。法務大臣は、必要があると認めるときは、当該法定受託事務に係る法令所管大臣に協議して、当該法令所管大臣の所部職員も、当該訴訟の指定代理人にできる(5項前段)。当該法令所管大臣の所部職員は、法務大臣の指示を受ける(同項後段)。なお、国の所部職員たる指定代理人は、代理人の選任以外の、一切の裁判上の行為をする権限を有する(8条)。
本条にかんしては、すでに、自治法245条の2に規定する処理基準が出ている(「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等にかんする法律第10条に定める法定受託事務の処理について」(注13)。以下「処理基準」という。)。
処理基準によると、まず、本条第1項の報告は、関係自治体の所在地を管轄区域とする法務局長または地方法務局長の長(以下この(二)において「法務局長等」という。)に対し、訴状の写しを添付の上、@訴訟が提起された旨と、A当該訴訟の処理を担当する職員の氏名および官職ならびに所属部局名および連絡先電話番号を記載した法務大臣あて書面を送付してすることになっている(処理基準1)。この官職というのは、国家公務員固有の呼称であり自治体に対しては「職」としなければ誤りであるが、この程度のミスは地方自治に詳しくない役所が出したということで大目に見て良かろう。
次に、第2項の報告は、同じく法務局長等に対し、訴状の写しその他の当該訴訟関係の資料を添付した上、@事案の概要、A訴訟の進捗状況、B参加が必要と考える理由、C当該訴訟の処理を担当する職員の氏名および官職ならびに所属部局名および連絡先電話番号を記載した法務大臣あて書面を送付してすることになっている(処理基準2)。「官職」が誤りであることは、同様である。
(注11)同旨、前掲注4・藤部論文51頁。
(注12)前掲注4・藤部論文52頁。
(注13)1999年12月14日付け法務省訟総第881号都道府県・市区町村長あて法務省訟務局長通知。この通知は、前掲注4・藤部論文56〜57頁に掲載されている。現物をみていないが、処理基準自体は法務大臣名で定め、通知文(いわゆるカガミ)が訟務局長名になっているのではないかと思われる。
(三)自治事務等に係る自治体訴訟法務への法務大臣の関与
自治体は、その事務にかんする訴訟について、法務大臣にその所部職員をして当該訴訟を行わせることを求めることができる(7条1項)。この請求には総務大臣への通知を要する(2項)。
この訴訟には、自治事務にかんする訴訟のほか、法定受託事務の執行に係る損害賠償請求も含まれる。従前、機関委任事務執行を原因として自治体に損害賠償請求がなされるときは、旧権限法7条によるとされていた(注14)。
また、注意しなければならないのは、法定受託事務も自治体の事務であるから、法定受託事務にかんする訴訟では、権限法6条の2によるほか、自治体側からも本条の規定による法務大臣の訴訟実施を求めることができるようになったという点である(注15)。
法務大臣は、自治体からの請求に対し、「国の利害を考慮して必要があると認めるとき」に、所部職員を指定代理人にして当該訴訟を行わせることができる(3項)。この場合に、法務大臣は総務大臣に意見を求めるものとされている(同項)。この訴訟に関して自治体は、弁護士を訴訟代理人に選任しても良い(4項)。
なお、この法務大臣指定の指定代理人も、代理人の選任以外の、一切の裁判上の行為をする権限を有する(8条)。ただし、反訴・控訴等の提起や訴えの取下げなどについては、民事訴訟法第55条第2項(第5号を除く。)が準用され、特別代理を要する。
本制度は、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)の施行に伴う1962年の権限法改正で創設され、一括法では改正がなされていない。
(注14)前掲注4・訟務実務研究会解説113頁。
(注15)前掲注4・藤部論文53頁。
二 立法目的評価
(一)権限法の目的とその評価
権限法における個々の関与制度の立法目的評価に当たって、まず、その上位目的たる権限法自体の目的を見る。権限法には目的規定がないので、実務側の見解をもってその目的と観念せざるを得ない。
制定当初(1948年)、権限法は、新憲法体制下で国家賠償制度の確立や基本的人権を尊重しようという憲法の理念等によって予想される事件の増大と複雑化に対処して、法務総裁(現:法務大臣)が一元的に訴訟を実施し、関係行政庁の負担の軽減を図り、実施の統一を期すことによって、@国の正当な利益を擁護するとともに、A訴訟の迅速適正な遂行と法律上の紛争の適正な解決(法律による行政の確保)を図ることを目的としていた(注16)。そこに、地方自治への配慮は見られない。
この@A二つの目的のうち、自治権が「地方自治の本旨」として憲法上保障されていることを考えると、@「国の利益擁護」はせいぜい自治権と同価値にすぎず、これに優越するもの即断するのは難しい。ただ、法治国家の下では自治体が司法に服するという点において、A「法律上の紛争の適正解決」は自治権への優越を比較的認めやすい。もっとも、実務では、こうした法の目的・使命・理念は、1970年代には忘れられてしまったとされている(注17)。
(注16)前掲注2・木佐論文(一)2422頁。なお、前掲注4・訟務実務研究会解説108頁〜109頁も参照。
(注17)前掲注2・木佐論文(一)2431頁。
(二)権限法2条3項の立法目的とその評価
旧権限法時代において法務大臣は、機関委任事務執行に係る国に対する損害賠償請求において関係自治体の職員を当然に指定代理人に指定できるものと解され、法が運用されていた(旧権限法2条2項(注18))。よって、結局、本項は、旧機関委任事務体制下における国家訴訟法務体制を、法定受託事務にそのまま引き継ぐものである。相違は、指定代理人候補選任権を自治体に付与させること、法務大臣は当該自治体職員たる指定代理人に対しては指揮ではなく指示権を有することである。
本項のような規定がないと、一括法施行後は、法定受託事務執行に係る国に対する損害賠償請求訴訟において関係自治体の職員を指定代理人に指定できないということが、本項新設の理由のようである(注19)。これでは、なぜ、自治体職員を国の訴訟法務の指定代理人にしなければならないのか分からず、それのみでは、本項新設の合理的理由とはいい難い。ただ、本項に係る訴訟事件の内容については、法務大臣所部職員等よりも、現場の、その意味で事件の当事者ともいえる自治体職員の方が詳しいであろう。したがって、訴訟上の主張・立証に正確を期し、裁判所が正しい事実認定をするために、当該自治体職員を訴訟に引き込む本項が、国の正当な利益の擁護のみならず、適正な裁判にとっても一定の意義を有することは否定できない。その点での本項の立法目的には、一応の合理性が認められるといえよう。
(注18)前掲注4・訟務実務研究会解説112頁。
(注19)地方分権推進委員会第170回審議概要(1998年3月30日)(速報版)(以下「審議概要」という)における法務省側意見参照。なお、前掲注4・藤部解説においては、2級河川の区域を不法占拠する者に対して、国が明渡請求訴訟を提起する場合、その訴訟で、占有者から黙示的な公用廃止があったとして取得事項の抗弁が主張されたときは、占有状況等の事実関係を把握する必要があるという事例が紹介されている(54頁)。
(三)権限法6条の2の立法目的とその評価
従前、機関委任事務に係る自治体の行政庁が当事者・参加人となる行政訴訟では、法令所管大臣などのいわゆる上級行政庁の職員も、当該自治体の行政庁が指定代理人に指定することができ(旧権限法5条2項)、この訴訟事件に法務大臣は指揮権等を有し(旧権限法6条1項)、その所部職員を指定代理人に指定できた(同条2項)(注20)。法令所管大臣所部職員の指定代理人制度は、1962年の権限法改正により創設された制度である。
権限法6条の2第4項及び第5項は、この旧法制の考え方を引き継ぐものである。法務省側によると、本条立案の趣旨は、こうした仕組みがないと国の「主張の統一性・整合性が確保されず、ひいては、名宛人である国民の間に不平等な結果を招来するおそれがある」(注21)からということになる。ただ、旧権限法5条には見られない、第1項(報告)から第3項(法務大臣の関与)、さらに法務大臣・法令所管大臣と自治体の長との協議義務(4項)の仕組みは、後述の1998年3月16日における地方分権推進委員会の法務省ヒアリングにおける委員会委員側の意見を若干反映したものであろう。
結局、本条の目的は、国としての主張の統一性・整合性の確保と、国民が受ける裁判結果の平等にあり、それぞれが、一応、国の正当な利益の擁護と適正な裁判という権限法の上位目的にそれぞれ対応することとなる。
第1号法定受託事務は国が本来果たすべき役割に係るものであるので、本条の目的は、自治権への干渉についてある程度合理性を見出す可能性がある(注21-2)。
しかし、より本質的な疑問がある。すなわち、法規の解釈適用は裁判官の職責であるから、訴訟の当事者・参加人には、法規の解釈にかんする主張・立証それ自体は原則として必要でない。それならば、国としての主張の統一性・整合性の確保は、裁判では、法的には意味をなさないことになるのではないかという疑問である(注22)。行政訴訟において裁判所が行政側の主張を鵜呑みするような法規の解釈をする事例が相当数あることは事実と思われるが、そのことをもって本条の目的に合理性を認めるのは難しい。
(注20)旧団体事務においても旧権限法5条1項が適用されるとするものがある(関哲夫『自治体争訟法』(学陽書房、1989年)13頁)。
(注21)審議概要における法務省側意見参照。
http://www8.cao.go.jp/council/bunken/council/h9/170.html
なお、前掲注4・藤部論文は、「第1号法定受託事務の性質に照らすと、第1号法定受託事務に関する争訟の結果いかんが当該事務の根拠法令の効力若しくはその解釈又は国の施策等、国の利害に影響を及ぼすことが考えられ、また、右争訟処理事務も本来の法定受託事務の処理の一環ないし延長と考えられることから、第1号法定受託事務に関する争訟事件の処理についても、国において、その適正な処理を確保する必要があり、そのための方策が制度化されることが必要不可欠」ということを、本条の立法目的に掲げている(51頁)。松本英昭『新地方自治制度詳解』ぎょうせい、2000年、126〜127頁も同様の観点に立っているものと思われる。
(注21-2)前掲注4・鈴木論文105頁は、本条の「指示」の根拠が不明確だとし、その内容が訴訟行為に及ぶと混乱するという。
(注22)自治体の行政庁側の権利自白に拘束力を認めることとした場合、国の主張の統一性・整合性の必要について検討する必要がある。例えば、許認可拒否処分の取消訴訟で被告たる自治体の行政庁が国の処理基準(自治法245条の9)からは裁量の範囲内で適法と解される当該拒否処分につき裁量権の濫用(行訴法30条)を認めるような陳述をする場合である。これについて、行政法の教科書では、塩野宏『行政法U(第二版)』(有斐閣、1994年)115頁や、原田尚彦『行政法要論(全訂第四版)』(学陽書房、1998年)368頁に見るように、行政訴訟上、自白(の拘束力)を認めるのが一般的であるが(さらに、南博方編『注解行政事件訴訟法』(有斐閣、1972年)79頁〔高林克巳執筆〕参照)、これに権利自白を含むか定かでない。民事訴訟法学上は、権利自白の拘束力につき否定説と肯定説があり、また、判例は純粋な法解釈が主な対象になっている権利自白には拘束力を認めず、具体的な事実関係の陳述を包含するかそれを前提とする法的なあてはめにかんする権利自白には拘束力を認めるのがその傾向とされる(小林秀之『新証拠法』(弘文堂、1998年)223頁〜231頁)。仮にこの考え方を行政訴訟にそのまま取り入れると、右に示した例において権利自白の拘束力を認めることもあり得る。しかし、そうだとしても、判例理論上権利自白の拘束力が問題となるのは事実に密接に関連するものに限られる。そして、当該事実の熟知という点で国(法務省)が自治体より優れているとは思われない。それゆえに、事実を踏まえた自治体(の行政庁)の主張を排し、自治行政権を制約してまで、国の主張に、裁判上の主張を統一させる必要性があるのか、疑問である。
(四)権限法7条の立法目的とその評価
旧権限法7条の立法目的は、自治事務の中には国の事務と密接不可分なものが少なくなく、また、訴訟の結果が、国の利害に直接かかわったり、国の行政目的に大きな影響が与えるものがあることにあるとされる。また、訴訟が増加し、自治体側から法務省の援助協力が要請されるようになったことも、同条制定の趣旨に挙げられている(注23)。
前段の目的中、単に国の事務と密接不可分の自治事務だからということでは自治権干渉への合理性を認め得る積極的な理由とはいえない。しかし、後段については、例えば国が補助金を出した自治体設置の公の施設の設置管理に係る事故において国家賠償法3条1項により国に損害賠償義務が生じることがあり得ること(注24)、また、法律に基づく自治事務にかんする訴訟結果は、行政実務における法律の解釈の変更を必要とすることがあり得ることから、その目的に、ある程度合理性が認められよう。なお、現行の自治体の抱える訴訟数が過多で自治体から法務省への援助協力が要請されるようになったという事実について訴訟数が過多との判断には(何を適正な提訴数とするかで意見が分かれようが)疑問があるし(注25)、司法改革が進み弁護士が増えれば、(司法試験科目から行政法が廃されることなど行政訴訟に強い弁護士が多数輩出され得るのか不安要素もあるが、)今後はあまり妥当性を有しない理由となろう。
ただ、法定受託事務にかんする訴訟、とくに権限法第6条の2に該当する訴訟についても、本条により、自治体からの請求に基づく法務大臣(所部職員)による訴訟実施が行われ得ることについては、まともな立法目的の解説は存在しない。法定受託事務概念が、地方分権推進委員会諸勧告から地方分権一括法にかけて変質していったことに、他の法律の整備がうまくいかなかった事項の一つではなかろうか。
(注23)前掲注4・訟務実務研究会解説110頁。このほか、権限法施行後14年を経て国の訴訟法務の一元化体制が充実したこと、自治体等公法人の中には国の利害にかかわる訴訟に対する対応能力が低いものが多いことが、本条制定の理由に挙げられている(南博方(編)『条解行政事件訴訟』(弘文堂、1987年)941頁(執筆者:大島崇志。以下、本書引用時の該当執筆者はすべてこの大島崇志氏である。)。ただ、これらの理由では、なぜ弁護士ではなく国の所部職員を指定代理人にしなければならないのか分からない。
(注24)宇賀克也『国家補償法』(有斐閣、1997年)330頁〜341頁参照。
(注25)前掲注9・札幌地方自治法研究会論文27頁〜28頁。
三 立法内容評価
各関与条項の立法目的に合理性が認められると仮定して、その内容を評価する。
(一)権限法2条3項の内容とその評価
訴訟においては、文書提出命令(民訴法223条)や関係自治体職員の証人尋問によっても、正しい事実認定・裁判はできると思われる。また、例えば本項にかかわる損害賠償請求について国が自治体職員を指定代理人にしなかったことで的確な事実の立証に失敗して敗訴しても、国家賠償法3条2項によって関係自治体に求償権を行使すれば済むのではなかろうか。そして、仮に本項がない場合でも、必要であれば、関係自治体に訴訟告知(民訴法53条)をし、自治体が補助参加(民訴法41条)(注25-2)をすれば、全体として適正な司法執行は可能と思われる。
それゆえ、本項のような関与制度は、関与の比例原則からは、他の現行法制上の手段で目的を達成し得ると解されるので、合理的必要性を欠くものといえよう。
(注25-2)前掲注4・鈴木論文105頁は、国と自治体は全く独立した主体であり、この間の訴訟参加の形式は、原則的に独立当事者参加であるべきだとする。
(二)権限法6条の2の内容とその評価
ここでは、@自治体の報告義務(1項・2項)、A法務大臣の一般的関与(3項)、B国の所部職員の指定代理人指定(4項・5項)に分けて考える。
まず@報告は、該当事件に対して国が具体的に関与するための前提となる仕組みである。この規定がない場合、制度的には各法定受託事務の処理基準(自治法245条の9)について各法令所管大臣に対する報告制度を定め、法務大臣への訴訟情報は省庁間の情報交換システムとする仕組みが考えられる。ただ、これでは、自治体の報告が法令事項とならないため関与の法定主義(自治法245条の2)の精神にもとる取扱いとなる。自治法上の第1号法定受託事務にかんする法令所管大臣の関与規定(以下「一般関与法」という。)とのバランスを考慮すると、本報告制度は、その限りで、合理性を認めることができよう。
A法務大臣の一般的関与は、一般関与法上の手段と同じ手段に限ったため、関与の比例原則を考慮すれば、一応の合理性が認められる。また、指示の発動要件を絞った点は自治権から見て肯首できるが、それでも、当該要件が「国の利害を考慮して必要があると認める場合」と厳格でないので、一般関与法の重複適用を認める解釈を採らない場合は指示発動要件を緩和したことになり、関与の比例原則上、なお問題といえよう(注25-3)。
B国の所部職員の指定代理人指定は、形態的に、訴訟法務の代執行制度と評価し得る。まず、この訴訟の遂行主体は自治体であって国ではないから、そもそも、法務大臣がどのような権利・権限に基づき、国の職員を当該自治体の訴訟に代理権を有する者を指定できるのか、疑問である。次に、その要件が3項の指示と同じ「国の利害を考慮して必要があると認めるとき」と厳格でないことに加え、(3項の「前項の訴訟」とあるのをAの措置を講じた訴訟と限定的に解さない限り)Aの措置を前置としていないことになるので、関与の比例原則からはその合理性を認めにくい。なお、行訴法23条により問題となる訴訟に国の行政庁が参加できるような解釈運用がなされれば(注26)、本条の目的とされている国としての主張の統一性・裁判結果の公平性を担保し得ると解され、この点からもこの指定代理制度の合理性が疑われる(補注26-2)。
また、権限法第7条第1項の規定による自治体からの訴訟実施請求と本条第4項による訴訟実施が競合する事件の場合、先に第7条の規定により訴訟を実施していたとしても、自治体の長および所管の大臣と協議した上で、本条第4項による訴訟実施に切り換えられるとする法務省側の解説がある(注27)が、後述の第7条による法務大臣の訴訟実施の法的性格を考えると疑問である。また、この法務省解釈とあわせ、この協議が、同意不要と解釈されると(注28)、第7条による法定受託事務にかんする訴訟実施請求は、(通知を受ける総務大臣にとっては重要な意味があるが、)自治体にとっては意味(価値)がなくなる。
(注25-3)前掲注4・鈴木論文105頁は、指示制度については、とくに上訴の指示などは自治権への不当な介入以外の何ものでもないとする。
(注26)差し当たり園部逸夫(編)『注解行政事件訴訟法』(有斐閣、1989年)331頁以下を参照。
(補注26-2)前掲注4・鈴木論文105頁も同旨と思われる。
(注27)前掲注4・藤部論文54頁。
(注28)前掲注4・藤部論文54頁。
(三)権限法7条の内容とその評価
自治事務にかんして本条の制度が適用される場合は、形態的に自治体訴訟法務の国への事務委託と見ることができる。その評価にあって、本条の目的のうち第一に国の利害にかかわるからという点については、他と同様に訴訟上の各種参加制度を実際に活用することによって、目的を達し得るように思われる。ただし、国が実際に関係訴訟に参加できることが前提である。第二に、自治体側から要請されているということへの対応という点では、確かに、国の所部職員の指定代理人指定は最大公約数的施策と思われる。もっとも、地方分権における自治体の自己決定権の強調を考慮すれば、いきなり指定代理人を指定するのではなく、自治体の求めに応じて法務大臣が助言する制度を、事前手続として設けるのが望ましかろう(注29)。
一方、法定受託事務の訴訟、とくに権限法第6条の2と競合する事案の場合、制度的な整合性を欠く状況が現出している。
とくに、本条1項による自治体の請求とこれを受けた法務大臣の指定代理人指定等訴訟実施の法的性格について、分析する必要がある。すなわち、これらは、その形態から見て、自治法250条の2第1項に規定する「許認可等」に該当すると解すべきである。したがって、仮に、同事案について権限法第6条の2第4項の規定による訴訟実施をすることとなった場合には、特別代理の消滅など第7条による訴訟実施と第6条による訴訟実施とでは法務大臣の関与権限に差があるし、権限法第6条の2第4項の規定による訴訟実施について自治体の同意がなくても行われることがあり得ると解釈されているから、改めて従前の権限法第7条による訴訟実施は廃する、すなわち法的には自治法第250条の2第1項の許認可等を取り消す必要があり、かつ、当該取消しは、自治法第250条の4に規定する方式に従わなければならないものと解する。
訴訟実務では、代理人の指定書について、権限法7条による指定の解除と第6条の2による新たな指定書が書面において必要になるものと思われる。
(注29)当該訴訟にかんして法務大臣は、自治法245条の4第3項の「各大臣」に当たると解するときは、法的措置は不要との考え方もあり得るが、その場合でも同条と権限法7条との適用順序にかんする法的定めがないため、立法上、なお欠陥が残ると解される。
四 法制技術評価
(一)権限法2条3項の法制技術評価
まず、本項中「訴訟の争点」について、権限法にも他の法令にも「争点」の定義規定が見当たらない。そこで、この「争点」の意義について解釈する必要があるが、筆者は、旧民事訴訟法(明治23年法律第29号)191条1項2号の判決書記載事項たる「事実及争点」についてのほぼ確立した解釈からこれを「当事者間で争われている事実」(注30)と解すべきと考える。したがって、法令(法規)の解釈に争いがあっても、それは、裁判官の職責で決すべきことであるから本項の「争点」ではないことになる。
第二に、本項の自治体の意見事項が問題となる。2条2項には、法務大臣が国に所属する所管行政庁の職員を指定代理人に指定する場合に当該行政庁意見を聴く旨の規定があり、その部分の文言は、3項と2項では変わらない。そして、旧権限法下の解釈ではあるが、2項の行政庁の意見は、「当該職員を指定代理人とすることによって行政庁の事務に支障が生ずるかどうかについてのもので、訴訟に協力するかどうかについてではない」とするものがある。また、新権限法の解釈においても、法務省側は、この考え方の延長で、本項の自治体による職員の指名を権限ではなく、指名義務と解している(注32)。しかし、3項の意見事項は、自治体と国とでは法主体が異なるし、前記三(一)のとおり、本項の内容の合理性について疑問を持っている本稿の立場からは、自治体には、単に事務に支障を生じるかのみならず、自治体職員の指定代理人指定の適否に対する意見も述べることができるものと解すべきである(注32-2)。
第三に、本項による自治体職員たる指定代理人に対する「指示」の法的性格が問題である。すなわち、権限法10条の文言は、自治体が所属職員を国の訴訟の指定代理人に指名する行為のみを第1号法定受託事務とするように読める。とすると、自治体職員は国の職員として本件訴訟を遂行していると解することになり、それならば、同項の指示は一般関与法の指示ではないことになるからその法的性格が問題になるのである。この指示は、行政法学上のいかなる性格のものであろうか(公務員法上の職務命令に相当するもの?)。なお、権限法と同様に都道府県職員を国の公務員かの如く扱っていた旧物品管理法11条は、一括法により、当該都道府県職員にさせる国の物品の管理事務を都道府県の法定受託事務とした(新物品管理法11条2項・3項)。権限法において物品管理法のような法整備は、訟務一元化という権限法の本来的目的に反するため採用しなかったものと推察されるが、法解釈的には右のような問題を残した。
第四に、本条の規定による指定について不服のある自治体が国地方係争処理委員会に審査の申出(自治法250条の13)を行えるかどうかが問題である。実際例は想定しにくいが、本項の合理性を疑う本稿の立場では、自治体の意見事項の考え方と同様に、これを積極に解すべきであろう(注32-3)。
(注30)石川明(編)『民事訴訟法講義』(法学書院、1992年)238頁。
(注31)前掲注23・南(編)937〜938頁。
(注32)前掲注4・藤部論文54頁。
(注32-2)前掲注4・鈴木論文104頁は、藤部論文のような指名義務のような運用は憲法違反であり、合憲的な運用は自治体の同意に基づくとし、指示はその包括的な同意の範囲内でのみ有効であるとしている。
(注32-3)前掲注4・鈴木論文105頁は、指示についてであるが、訴訟遅延をまねく可能性が高く、裁判当事者である私人の裁判を受ける権利の不当な侵害になるおそれがあるとし、自治体の指定代理人が国と矛盾する訴訟行為を行ったときは、指定が解除されたとみるべきであろうとされている。
(二)権限法6条の2の法制技術評価
第一に、1項の報告の対象について、解釈論として、法定受託事務に関する自治体と国との訴訟(自治法245条8、251条の5)については、報告すべき対象ではないとするものがある。これらの訴訟に係る事務は第1号法定受託事務とはいえないというのが、その理由である(注33)。
関連して、市町村と都道府県の間の第1号法定受託事務をめぐる訴訟における本条および第7条の適用関係が問題となる。たとえば、知事による代執行(自治法245条の8第12項)は第1号法定受託事務である(自治法320条1項)。したがって、代執行訴訟(自治法245条の8第12項が準用する同条3項)は、とくに都道府県側にとっては第1号法定受託事務の執行そのものであって、訴訟構造上短期間の審理が求められているとはいえ、場合によっては、法務大臣が関与すべき事案もあり得ると思われる。そして、この場合、法務大臣が、観念的には市町村側に立つこともケースとして想定できるのではなかろうか。同様に、自治紛争処理委員の審査手続を経て提起される違法な都道府県の関与に対する訴訟(自治法252条)への都道府県側の対応は自治法320条には第1号法定受託事務として列挙されていないが事柄の性質上当然に第1号法定受託事務になるのではないかと思われる。この場合、やはり(都道府県側に立ってというのが一般的と思われるが)法務大臣が関与すべき事案が構想される。
権限法6条の2の内容に対して消極的な立場に立つ拙稿において、上記事案で法務大臣が関与すべきという事案があるという解釈論を提示するのは奇異ではあるが、同条1項、2項の報告制度の意義については認めているので、報告対象にかんする解釈論としては、上記都道府県対市町村の第1号法定受託事務をめぐる訴訟は、同条の報告対象となるものと解される。
第二に、2項の「訴訟の争点」の意義が問題となるが、これは2条3項のそれと同じく「当事者間で争われている事実」のことをいうものと解される。
次に、3項ただし書及び4条の指示・指定代理の発動要件が「国の利害を考慮して必要があると認める場合(とき)」と曖昧な点が問題である。明確化・具体化が必要である。
第四に、上述のように、4項の指定代理は、3項の関与がなくても発動できると解し得るが、自治権への干渉から考えると、3項の関与を優先し、4項中「前項の訴訟」を3項の措置を講じた訴訟と解し、かつ、3項の措置では権限法の目的を達し得ない場合に限るとする解釈が必要であろう。
第五に、3項の関与について、一般関与法の規定、例えば助言や資料提出要求の方式(自治法247条・248条・249条)にかんする規定の適用があるかどうかが問題である。法令の作り的には、積極に解すべきである(注34)。なお、法務大臣の指示の発動に関して、是正の指示にかんする自治法245条の7が適用されるか否かも、発動要件の緩和か加重かを決する重要な論点である。文言的には難しいかもしれないが、関与の比例原則から、積極説を採用したい。
第六に、これら関与についても国地方係争処理委員会に審査の申出を行えるかが問題となる。本条の目的・内容の合理性を疑問視する本稿の立場では、やはりこれを積極に解すべきと考える(注34-2)。
(注33)前掲注4・藤部論文51頁。
(注34)法務省側も、少なくとも指示は自治法249条の適用があると考えている。前掲注4・藤部論文54頁参照。
(注34-2)ただし、注32-3参照。
(三)権限法7条の法制技術評価
第一に、立法内容評価のところで述べたが、現行法制を是とした場合、法定受託事務にかんする権限法7条の規定と6条の2の競合という、大きな解釈上の問題が生じている。
両条では、特別代理の要否という点で訴訟運営上大きな相違をもたらすから、6条の2で法務大臣が訴訟実施をすることになれば7条による訴訟実施も自動的に6条の2に切り替わるというのは、妥当な解釈ではなかろう。
第二に、3項の「国の利害を考慮して必要があると認めるとき」の基準の明確化・具体化が必要となる。旧権限法下の法務省・自治省合同の通達は「国又は国の事務を行なう行政庁を当事者又は参加人とする訴訟と関連する事件」など4つの基準を挙げている(注35)が、国側は、この基準によると「訴訟の結果が国の法律上の利害に関係があるものに限らず、広く事実上ないし行政上の利害関係があればよく、また、その判断は大臣の自由な裁量に委ねられている」(注36)としている。
しかし、第一に、本条の指定代理は、自治体側の請求によるとはいえ自治体訴訟法務への関与であるから、一般関与法上の関与の比例原則が及ぶと解されるので、法務大臣に完全な自由裁量があるとの解釈は採用すべきものでない。
第二に、本条の自治体の請求と請求を受けた国側の指定代理人指定は、一括法施行後は、自治法250条1項に規定する「許認可等」に該当すると解されるから、仮に「自由な裁量」を認めたとしても、法務大臣は、同条1項及び3項により、当該通達の基準をより具体化した基準を設定・公表すべき義務を負う。たとえば、旧権限法通達にはないが、筆者の側聞によれば、「勝訴の見込みがない事件には所部職員を指定代理人に指定しない」との消極要件が、法務省側の運用サイドには存在するように思われる。指定基準の透明化が求められる。
なお、この法務省・自治省合同の通達について、法務省側は、地方分権一括法施行後も当然に適用があると解している(注37)。ただ、同通達中機関委任事務にかんする言及(注38)は、自動的に失効したということになるのだろうか。
(注35)「訴訟事件の処理等について」1962年12月28日付け法務事務次官・自治事務次官通知(前掲注4・訟務実務研究会解説128頁以下に収録)第一参照。
(注36)前掲注4・訟務実務研究会解説113頁。
(注37)前掲注4・藤部論文53頁。
(注38)前掲注35の通達の「第八 国の機関委任事務について地方公共団体の機関が当事者となっている事件については、上記法律第7条の適用はなく、・・・・」とある部分。
一 一括法による権限法改正の経過と新しい権限法体制の総括評価
まず、インターネットで公表されている資料を基に、一括法による権限法の改正にかんする経過を概観する。
第1次〜第4次の地方分権推進委員会勧告には、権限法にかんする具体的な提言がない。このため、法務省側は、法定受託事務にかんする訴訟のあり方に勧告は特段の指針を示していないと解し、訟務一元化のみの目的から、ほぼ旧権限法体制を、新たな地方自治法制下でも引き継ぐべき考え方でいた模様である。
ところが、1998年3月16日の同委員会の関係省庁ヒアリングの席上、機関委任事務の仕組みをそのまま法定受託事務に当てはめればいいという訳にはいかない、法務大臣の関与は一般ルールに従い助言・勧告からとし、指示は「国の利害に直接関係がある場合などに限るべき」、法定受託事務の訴訟につき法務大臣等国の所部職員を指定代理人にするには自治体の意見を聞くべきといった委員会側の意見が出された。なお、この日の会議の後、本テーマにつき、再度議論することになっているが、記録は公表されていない。
政府(法務省側)は、この意見を踏まえ、指示に限定を付す場合に委員側が述べた「直接性」を外すなど国側の有利な形にいわば換骨奪胎しながら、ほぼ一括法による権限法改正と同内容の事項を、1998年5月の地方分権推進計画に盛り込んだ(別紙1(80))。
こうして整備された新しい権限法の法制は、前記第二で述べたとおり、総じて、地方自治や、一般関与法上の関与の比例原則への配慮を欠き、旧機関委任事務に係る訴訟体制を法定受託事務にかんする訴訟体制にほぼ引き継ぎいだものとなっている。本稿は、法運用の評価を欠くが、各関係条項の目的・内容(仕組み)・法制(解釈)のどの点からも問題を有していると総括評価せざるを得ないであろう(注39)。
(注39)この基本的な考え方は、結果として、旧権限法にかんする前掲注2・木佐論文(一)2430頁の主張と軌を一にする。
二 法政策上の提言
(一)立法論
当分の間、地方分権からの抜本的法制改革は期待薄である。しかし、近年の司法制度改革と併せて行政訴訟制度改革も議論されつつあることから、来るべき行政訴訟法改革の際における国の訴訟法務のあり方本体の見直し及びこれに伴う権限法改正を念頭に置き、本稿考察の3箇所の条項にかんする立法論上の提言を行う。
第一に、権限法2条3項による国の訴訟法務における自治体職員の引込み制度は、立法目的達成のための他の代替制度の機能拡充とともに、これを廃止すべきである。
第二に、権限法6条の2第4項及び5項の国の所部職員の指定代理制度については、これを廃止すべきである。当該制度を残す場合は、少なくとも当該指定代理の前に、3項による助言等の関与を前置し、当該関与では法の目的を達することができず、これを放置することで国の利害に直接的かつ重大な影響を及ぼすと認められる場合に限り、指定代理ができるよう要件を厳格化すべきである。また、4項の「国の利害を考慮して必要があると認めるとき」との法務大臣の広範な自由裁量を認める規定についても、国の利害に直接関係のある事件に限るなど要件を厳格化すべきである。
第三に、権限法7条については、弁護士の充実にあわせて、廃止すべきである。仮に本制度を残すとしても、権限法6条の2第3項と同様に、「国の利害を考慮して必要があると認めるとき」との要件を、より厳格にすべきである。なお、法定受託事務の訴訟にかんして、権限法6条の2と本条が競合する場合における取扱いについて、法制上、整理すべきである。
(二)解釈・運用論
右法制上の改革がなされない間は、現に実行済のものがあるかもしれないが、次の形で権限法の解釈・運用を図るべきである。
第一に、権限法2条3項については、国側が関係訴訟につき自治体に訴訟告知をするなどして代替手段を用いることを常とし、運用上本項を用いないようにすることが望まれる。
第二に、権限法6条の2については、なるべく3項の助言・勧告で事足りるようにし、4項・5項を発動させないような法の運用とすべきである。また、「国の利害を考慮して必要があると認めるとき」の解釈基準の厳格化を図る必要がある。さらに、例えば指示等にかんする国地方係争処理委員会での処理事例の蓄積が望まれよう。
第三に、権限法7条に関しては、自治体側がまず同条を利用しないように努めることが必要である。自治体側から請求がなければ、法務大臣は、法律上は関与できないのである。
権限法は、自治体訴訟法務を規律する法制度の一部にすぎない。そこで、最後に、自治体訴訟法務の遂行主体にかんする法律論を、自治体訴訟法務組織法と位置づけ、残された権限法の課題及び権限法以外の自治体訴訟法務組織法上の諸課題・論点を提示し、本小稿の結びとする。
一 自治体議会対国家行政の関与
自治体の機関委任事務に係る行政訴訟の提起(控訴等を含む。)には、自治法96条1項12号による議会の議決は不要と解されていた(いわゆる行政実例(注40))。しかし、法定受託事務については条例制定権が及ぶことになった(注41)ので、法定受託事務に係る行政訴訟の提起にも議会の議決が必要になるものと解される。そこで、議会が訴えの提起や控訴等をしないとした決定を国が関与して(法務大臣の指示等)覆させることが許されるべきか、今後議論を要すると思われる。
(注40)長野士郎『逐条地方自治法(第12次改定新版)』(学陽書房、1995年)289頁。
(注41)前掲注21・松本著119〜120頁。ただし、法定受託事務に対する条例制定にかんする細かい論点については、差し当たり北村喜宣「法定受託事務と条例」自治研究75巻8号56頁以下(特に60〜63頁)を参照のこと。
二 法令のカバーが不完全なものとなった自治体所属職員の指定代理人制度
自治体訴訟法務では、自治体がその所属職員を指定代理人に選任することが推奨されている(注42)。だが、弁護士代理の原則の例外となる指定代理制度は法令に根拠を要するところ(民訴法54条1項本文)、何が当該法令の定めとなるか問題である。
旧権限法体制下では、いくつかの解釈があった。第一説は、自治体の行政庁の訴訟法務を機関委任事務と団体事務に分け、前者については旧権限法五条一項が適用され、後者については同項が準用されるとする説である(注43)。
第二説は、第一説とほぼ同じだが、団体事務で首長が行政庁の訴訟については、自治法153条1項が適用されるとするものである(153条1項を根拠とする裁判事例はいくつかある。)。団体事務で首長以外の執行機関を行政庁とする訴訟の指定代理人については、旧権限法5条1項準用説に立つ(注44)。ただ、教育委員会については、自治法153条1項が根拠になるというならば、法令の作りが同項と同じの地方教育行政の組織及び運営にかんする法律26条1項及び2項を根拠にできるように、著者には思われる。
第三説は、機関委任事務と団体事務の区別なく、旧権限法5条1項が適用されるとし、団体事務にかんする訴訟については旧権限法6条の法務大臣の指揮権を否定するものである(注45)。
これら三説はいずれも全面的又は部分的に旧権限法五条一項の適用や準用を唱えるが、一括法により旧権限法第5条1項は国に所属する行政庁のみを対象とする規定となったため、一括法施行後は、適切な説明ではなくなる。
そこで、自治法153条1項、地教行法26条1項及び2項のない首長・教育委員会以外の執行機関を行政庁とした訴訟における指定代理について、早急な法令整備が望まれるのである。
(注42)天野巡一・加藤良重・岡田行雄『政策法務と自治体』(日本評論社、1989年)279頁〜280頁(加藤良重発言)。
(注43)前掲注23・南(編)939頁。ただし、執筆者(大島氏)は本説を紹介するが、これを自説とするものではない。
(注44)半田良樹「自治体をめぐる訴訟の特質と動向」関哲夫(編)『自治体の法務と争訟』(学陽書房、1989年)43頁〜45頁。
(注45)前掲注20・関著13頁。
三 訴訟代理人の活用
自治体所属職員の指定代理人の大半は、法曹教育を受けていないから、具体的な訴訟法務展開に当たって、特に証人尋問(注46)などにおいて彼らが必要な技術・能力を有しているとは言い難い。そこで、指定代理人制度の活用とともに訴訟代理人(弁護士)の有効な活用方策と合わせた訴訟法務の開発があわせて必要となる。
(注46)加藤新太郎(編著)『新版民事尋問技術』(ぎょうせい、1999年)。
以上