レーザ光の安全について(平成17年改訂をもとにした更新) 

                                    中 島 一 光

 最近はあまり聞かなくなったが、レーザと言うと「殺人光線」を想像して必要以上に恐れ、何か
特殊な影響(放射能のような残留性?)が有るかのように忌避する人が見受けられた。

 平行性の良い光が目に入れば、水晶体で屈折して、網膜上で極めて小さい点に集光されるので、
その点でのエネルギ密度は高いものになり、網膜が焼損することになることを考えると「
同じ強さ
の他の光(レーザの原理に基づかずに発生した光)に比べて危険である
」ことには違いないが、
弱いレベルの光を含めて過度の恐怖を抱く必要は毛頭無い

 レーザ安全に関して規定している規格(JIS C 6802)に関する概要説明、アイセーフ波長のレーザ、
レーザ光を屋外に発射する場合に採られている
安全対策等について述べる。

1.JIS 6802に関して

 労働基準法その他でも安全に関して規定されているが、そのもととなるのは「日本工業規格
(いわゆるJIS)」である。
 具体的にはその中の C 6802に規定されている。(用語に関しては
JIS C 6801に規定)
この
JIS C 6802は、国際規格である IEC 60825−1を翻訳したものであり、各所で行
われた
様々な安全確認試験に基づいた「世界的に共通の安全基準」であり、この規格に準拠して
いる限りは「レーザ光を安全に使用できる」
ものである。

 規格の内容は複雑であり、安易な抄録はかえって誤解を招き、それが原因で思わぬ危険を招く恐
れがあるので、レーザ機器の設計や運用に携わる方々には
直接読んで「十分な理解をした上で使用
される」ことを望む次第である。 ここでは
JIS C 6802とはこんなものだとの理解を戴く程度に
止める。

 大別すると次のようなことが書かれている。

1)レーザの波長や強さ等に応じたクラス分け  クラスに応じて、求められる安全対策が異なる。

2)レーザの波長、眼に当たるか皮膚に当たるかに応じた許容できる安全なレベル

3)安全対策や危険表示ラベルに関する規定

4)具体的な安全レベル計算(多くの事例に対応)


1.1
レーザのクラス分けの概説

クラス1]合理的に予見可能な運転状況下で安全であるレーザ。
      どのような光学系(レンズや望遠鏡)で
集光しても、眼に対して安全なレベルであり、
      クラス1であることを示すラベルを貼る以外は特に対策は要求されていない。

クラス2]可視光のみに規定され、眼の保護は「まばたき」などの嫌悪反応により行われることに
      より
クラス1なみの安全が確保されるレーザ

   ※クラス2に出力を抑えていれば、眼に対しては安全であるが、強い光を浴びれば、幻惑され
    手元が狂う
(運転していればハンドルを切りそこなう)ことも考えられるので、
    
別の意味の安全に対する規制が必要かも知れない。
    但し、これは
写真のフラッシュやサーチライト等にも言えることであり、レーザ光の
    安全の論議とは別の次元
の話しである。
    
米連邦航空局(FAA)から出された指針? 屋外発射のレーザが航空機に及ぼす危険性
    一つの参考になると考えられる。

クラス1M]合理的に予見可能な運転状況下で安全である302.5nm〜4000nmの波長範囲の光を
       放出するレーザ。 
光学系で覗かない限りは安全なレベルである。

       このレベルの光を屋外に放射した場合は、望遠鏡等を覗いている人が居ないとは言え
       ないので危険と考えるべきである。 
屋内等使用条件が限定された場所でのみ安全
       レーザと做すべきである。

クラス2M]可視光のみに規定され、眼の保護は「まばたき」などの嫌悪反応により行われることに
       より
安全が確保されるレーザ。 光学系で覗かない限りは安全なレベルである。

クラス3R直接のビーム内観察は潜在的に危険であるが、その危険性はクラス3Bレーザに対する
       ものよりも低いレーザ。 製造者や使用者に対する規制対策がクラス3Bレーザに比し
       緩和されている。 クラス1あるいはクラス2のAELの5倍以内である。
 
      鍵やインタロックを取り付ける必要が無い点で、その上のクラスとは異なっている。

クラス3B直接見ることは危険なレーザ   直視をしなければ安全なレベル

       インタロックを取り付ける必要がある。使用中の警報表示等が必要。

クラス4散乱された光を見ても危険なレーザ 皮膚に当たると火傷を生じたり物に当たると火災
      を生じる恐れの有るものを含む。

      出射したレーザビームは必ずブロックする等の対策が必要。

      当然の事ながらインタロックを取り付ける必要がある。使用中の警報表示等が必要。

 レーザ光が外部に出ることにより、人や物にダメージを与えるので、この心配が無い方策がとられ
ていれば「安全なレーザ装置」と言える。
クラス分けも装置から出るレーザの強さ等によるので、
強いレーザを使用した装置は必ずカバー等を付け、装置から出るレーザ光は分類された(ラベル等が
貼られた)レベル以下となるようにすれば、低いクラスとして扱われる
。(加工機等内部で強い光を
使用しても、カバーで覆われインタロックスイッチで完全に防護されていれば、低いクラスと做され
るが、調整等の必要性からインタロックを殺してカバーを開けた際に強いレーザ光が外に出ることが
考えられる場合は、それに応じた安全対策がなされている必要がある。)


1.2
許容出来る安全なレベル

 レーザ光が眼に入ったり、皮膚に当たった時に許容出来る安全なレベルを「最大許容露光量
maximum permissible exposure MPEと略す)と言う。

 この数値の設定根拠は、

 50%が障害を受けるレベル(レーザ光密度等)の1/10 と言われている。

 個体により障害を受けるレベルが異なるため、多数の対象を調査し、そのうち50%の個体が障害
を受ける(残りの50%は障害を受けない)レベルを基準とし、この1/10のレベル
のことである。
(このような障害を受けるレベルは一般に
正規分布と呼ばれる分布をしており、50%の1/10
と言うのは5%が障害を受けるレベルではなく、「
50%の個体が障害を受けるレベルの1/10
のレベル
」でありこのレベルで障害を受ける可能性は殆ど無く、「絶対に安全である」と称しても
問題無いであろう。)

 そのように安全なレベルであるにも拘わらず、JISでは「最大許容露光量(MPE)値は、
使用者のためのものであり、実験的研究から得られた最良の情報に基づいた既知の危険レベル以下に
設定されている。MPE値は、露光量を管理するガイドとして用いるもので、安全なレベルと危険な
レベルとの間を明確に定義する分割線とみなしてはならない。いかなる場合にも,レーザ放射に対する
被ばくは、できるだけ低くしなければならない。
」として不必要に強い光を出すことを戒めている。

 人や物に当たる可能性がある場所にレーザ光を発射する場合は、可能性のある最も厳しい条件の場
所でも
MPE以下になるような配慮が求められる。(逆に考えると、何の対策も講じていない場合に
は、レーザ光の
出口に眼を近付けてもMPE以下のレベルとなるような光しか出せないことになる)

 一般にユーザは、安全に関して詳しくはないので、装置メーカは「JIS C 6802 に基づいた測定を
行い
クラス分け」をして、ラベルの貼りつけを行い、ユーザに対しては取扱説明書等により
「クラスに応じた安全対策」を求めたり、必要に応じて安全に対する教育を行う必要
がある。

 鍵等を付けてもその鍵はユーザに渡すことになるので、ユーザの誤使用を防止するため、「取扱
説明書の冒頭に注記する」などあらゆるケースを想定して安全確保につとめる
必要がある。

※持続時間の短いパルスレーザでは、一般に単発のレーザは少なく繰り返し発振をするものが多い。
 繰り返しレーザでは、この
繰り返し数に応じてMPEが下がる。ある範囲内では被曝するパルス
 の数の
1/4乗に逆比例してMPEが下がるが、繰り返しの高いレーザではそれに加えて平均パワ
 ーによる制限
があり、どちらか小さい方がMPEとなるので、両方の計算を行って比較せねばな
 らない。
詳しくはJIS C 6802を詳細に読む必要があるが、MPEの計算を行う人はこの点を常に
 頭の隅に置いておく必要がある。


1.3
主な用語に関する説明

 レーザ安全に関する用語は、JIS C 6801に対応する英語を含めて規定されている。そのうち重要
かつこれのみでは理解し難いものについて補足説明を加える。

最大許容露光量maximum permissible exposure MPEと略す)  前項に示す。

公称眼障害距離nominal ocular hazard distance NOHDと略す)

 俗に平行な光と言われているレーザ光と言えども拡がり角を持っているので、遠方に行くほど広
がり、その結果単位面積あたりに入るエネルギは小さくなる。発射地点では危険なレベルでも遠方
に行くとMPE以下の謂わゆる安全なレベルになる。 
MPEと等しいエネルギ密度になる距離を
公称眼障害距離と称する
。一般に裸眼を対象に決める例が多いが、仮に双眼鏡等で覗いている人
居た場合、対物レンズに入った光が瞳の位置に集められることになり、危険度が増す。 従って
「レーザ出射方向の全ての距離の安全を確認」出来ない場合は、このような
双眼鏡や望遠鏡で覗い
ている人が居るかも知れないことを想定して(光学系の倍率を考慮した)拡張公称眼障害距離を求
める
必要がある。この光学系の倍率をどの程度に想定するかについては論が分かれるところであり、
公式に定められたものは無いが、地上で水平方向に発射した場合、少なくとも7〜8倍の双眼鏡は
想定する必要があろう。人が携行する双眼鏡ではこの程度で問題ないと考えられるが、船に備え付
けた双眼鏡や展望台に備え付けられたものには更に高い倍率のものがあり、これらが存在する可能
性のある所では更なる配慮が必要となる。また、NASAの文献では、人工衛星から地表に向けて
レーザを発射する場合に200〜250mm(8〜10インチ)[瞳径を7mmとすると30倍前
後]を想定しているものがあった。世の中にはそれより大きな望遠鏡も存在しているが、数が限ら
れかつ肉眼ではなくCCDカメラ等の計測器で記録する場合が多いために不必要?に安全を考慮し
ないためと考えられるが、想定される第三者からの抗議と設計条件のトレードオフを考慮した上で
決定されたと考えられるので、これ以上の詮索は差し控える。

 NOHDを計算するには、そのレーザの波長でのMPEとレーザのビーム拡がり角が最小限解っ
ている必要があるが、遠距離となるものでは、
視程に応じた光の減衰を考慮することもある。また、
レーザビーム内の
エネルギ分布等にも配慮する必要がある。レーザレーダの計測目的を考えると、
強いレーザ出力が要求されるため、
NOHDが数十km以上となる場合も多い
このような時は3項で述べる
安全対策が不可欠となる。

公称眼障害区域nominal ocular hazard area NOHAと略す)

 MPEと等しいエネルギ密度になる範囲を公称眼障害区域と称する。考え方はNOHDと同じ。

被曝放出限界accessible emission limit AELと略す)

 レーザ製品の各クラス毎に定められた最大の放出レベルであり、波長や被曝する時間毎に細かく
定められている
。 連続(CW)レーザでは(ワット)で規定されるが、パルスレーザでは
(ジュール)で規定される例が多く、パルス幅で割ることによりWに換算する。 

レーザビーム径

 レーザビームの直径を言う場合が多いが、光学系を通過したビーム径の変化を計算する公式等で
半径を言う場合もあるので、
どちらで定義されているかを明確にする必要がある。また、レーザ光
の強さは
ビーム径全体に亘って均一ではなく、中央部が強く徐々に弱くなっている場合が多い。
この弱くなり方は一般に正規分布と同様な形をとることが多く、この分布を「
ガウス分布」と呼ん
でおり、ビーム径は一般に強さが中央(最大の所)の
1/e(約13%)となるところで定義す
る場合が多いが、沢山のモード(レーザ発振をしている状態)が立っている謂わゆるマルチモード
(横モード)レーザの場合は最大値の1/2の強度のところでビーム径としている場合もあるので、
何で定義されているかを確認する必要がある。(実質的にはマルチモードの場合は、1/e
1/2で定義したものとの間でビーム径はさほど大きな違いはない)

[以下は細かい定義に係わるものであるので、必要無い人はパスして下さい。]

※「ガウス分布」のビーム径の定義を1/eでなく1/eと記している文書もあるがこれは
 「
レーザ光の強さ(パワー又はエネルギ)ではなく、電磁波と考えた時の光の振幅」として
 定義
されたものであり、レーザ光の強さ(パワー又はエネルギ)は振幅の2乗に比例するので
 同じことを言っているのであるが誤解を招き易い箇所である。
 パワーメータ等で計測可能なのはあくまでもレーザ光の強さであり、
振幅は直接計測出来ないか
 ら(理論計算の場合等を除き)1/eと覚えておく
方がよい。

[参考]ビーム径とパワー(又はエネルギ)密度の関係は、ピーク(中央)の強さ(密度)は全パ
 ワー(又はエネルギ)を
ビーム径(1/eで考えた径)をもとに計算した面積で割った値の
 
2倍になる。(途中計算略)MPEを計算する際にこの「2倍」分を考慮する必要がある。

※JIS C 6802では敢てエネルギとして1/eのところで定義している。 これは密度計算
 等を行う際に 全エネルギ÷[1/eとなる面積]=[ピークの部分の密度]となり、計算上は
 都合がよい。 なお「1/eとなる面積」の中に入るエネルギは63%であり、このビーム径を
 d
63と表現している。

レーザ製品の多くは1/eで定義されたビーム径を記しているので、ビーム径は1/e
 ビーム中央のパワー密度は平均密度の2倍
となるとした方が混乱する恐れが無いと考える。
 なおJIS C 6802に則り各種計算をするため1/eの径をカタログ等に記載された
 1/e をもとに算出する時は1/√2とする。(面積としては1/2)

ビーム拡がり角

 レーザビームと言えども完全な平行光ではなく、遠方に行くにつれて広がってゆく。この広がり
を示すのがビーム拡がり角
である。これもビーム径と同様に全拡がり角を考える場合とビーム径の
変化を計算する際に用いる半分の(片側の)拡がりを言う
場合がある。

 これも1/eの強度の点を結んだ線で考える場合が多いが、JIS C 6801では1/eの強度の点
を結んだ線で考えている
ようである。この拡がり角で計算した「遠方のビーム径」からMPE等に
必要なパワー密度を計算する際には2倍を考慮する必要は無いが、
レーザ製品の多くは1/e
考え方に基づいて拡がり角を定義しているのでこれに則った方がよい
であろう。
1/eの拡がり角をカタログ等に記載された1/e をもとに算出する時は1/√2とする。

 ※遠方でのビーム径について

  もとのビーム径と拡がり角と距離に関して、厳密な取り扱い式があるが複雑であり、かつ遠方
 では近似式でも殆ど変わらないので、
JIS C 6802を始めほとんどの例は下の近似式を用いている。

=a+rφ  r:距離 a:距離rでのビーム径 a:出射ビーム径 φ:ビーム拡がり角

ビーム拡がり角は一般にmrad(ミリラジアン)のオーダでありrをm(メートル)で考えると
rφはmmで表わされることになる。一般に遠距離ではrφの方が大きくなり、aは無視しても
差し支えない場合が多い。

※きちんと調整された光学系(ビームエキスパンダ等と称す)を通してビーム径をM倍に拡大して
 発射すると
ビーム拡がり角は1/Mにすることができる。(上の式でaがM倍、φが1/M)

遠距離でのビーム径を小さくする時に有効であるが、その際はaを無視出来なくなる。

2.アイセーフ波長のレーザ

 可視光のレーザは、眼に入った場合途中で殆ど吸収されず、水晶体で集光された光が網膜上で一
点に集まるため
危険とされている。それに対して赤外や紫外のレーザは、途中で吸収され網膜には
達しない
ので、より安全な波長のレーザとされている。 このように安全な波長のレーザを一般に
アイセーフ波長のレーザ」と呼んでいる。しかし、可視光以外でも波長によっては「吸収は少な
いが、網膜の感度が低いために見えない」ものがあり、この場合は光は網膜に達するため安全度は
低くなる。また、「
表面の極めて薄い層に吸収されるため、当然のことながら網膜に達することは
ないが、
吸収した光のエネルギにより表面のみが温度上昇して、これにより表面が破壊される」恐
れもあるので、
安全度が若干下がる(網膜に集光した場合に比すれば遥かに高いレベルまで安全)
ものもある。

 最も安全とされている波長は、「適度の吸収(1mmあたり2〜30%が吸収される)により、
入射光が徐々に吸収され、網膜には殆ど達しないが、表面のみが温度上昇する恐れもない
眼球の体積全体で熱を分担して引き受けることになる)」領域である。

 図1に10ns(10−8秒)だけ強いエネルギのレーザが入った場合と、1秒間かけてエネル
ギが入って来た場合の
波長に対するMPEの違いを示す。黒の線で示す10nsのパルスに対する
ものは、
適度の吸収がある1500nm〜1800nmでは、可視光に対して106 倍以上安全
になる。また
表面での吸収が大きい紫外線や遠赤外線に比しても100倍以上安全になる。一方、
赤の線で示す1秒のレーザに対するのMPEは、可視光では10nsのパルスに比して1000倍
以上強いエネルギが許容出来るようになるのに対して、
1500nm〜1800nmの場合は10ns
の場合と全く変わらない
。これは、1秒程度では体積全体で分担して吸収した熱が冷めるには短す
ぎるためである。即ち、
1500nm〜1800nmの光は単発のパルスレーザに対しては極め
て安全な波長
と言えるが、連続波や繰り返しパルスに対してはそれほど有利にはならない
。表面で
吸収される紫外線や遠赤外線は表面の熱が内部に拡散することにより安全度を増す結果、体積で吸
収する1500nm〜1800nmの光と大差がなくなる。

 上述のように、同一の場所を照射し続ける場合は、吸収したエネルギか積算されることにより
1500nm〜1800nmの光の利点は薄れる
が、光を走査して計測する用途では「同一の場所
に光が来るには数秒以上を要する」場合が多く、その間は目にレーザは入らず
安全度は増すので、
この
波長帯の利点を生かすことが出来る。レーザを外部に発射して計測を行う謂わゆるレーザレー
ダの場合、観測対象に対して特に波長の要求がないもの(特定の物質のみを検出するレーザレーダ
ではその物質の吸収特性等に合致した波長が要求されるので不可となるが、距離等を計測する用途
では波長を選ばない場合が多い)については、
アイセーフ波長を使用することが望ましい

※大気の極めて僅かな散乱光を受光して、有害物質等を検出するレーザレーダ等では、物質に応じ
 た波長のレーザの発射が不可欠
であり、かつ散乱される割合が少ない点を補うためレーザは高出
 力とする必要
が有り、当然のことながら発射されるレーザは目に対して安全ではなくなる
 予め人が居る場所には発射出来ないような安全機構は完備されているとしても、
予想外の場所に
 人が入って来ることが考えられる
(例えば航空機がレーザの発射方向に入ってくる)。それに対
 する安全策は後述するが、そのうちの一つとして「
事前にアイセーフ波長の光を発射し、大気や
 雲等以外からの強い反射光を検知した場合は、何か固体の反射物が進入したと判断して、計測用
 の(アイセーフ波長でない)レーザの発射を取りやめる方法
」があり、アイセーフ波長のレーザ
 の一つの応用例として有用なものである。

3.レーザ光を屋外に発射する場合に採られている安全対策

3.1 クラス1又はクラス2のレーザを発射する。

 最も安全かつ確実な方法であり、距離計測等では実用的であるが、高出力を要する「大気の散乱
光を検出する用途」等には使えない。

3.2 レーザを走査し、それぞれの方向では被曝がMPEを超えないようにする。

 単発では安全だが、継続して当たっているとMPEを超えることになる場合、その光を走査する
ことにより一方向に対しては一走査に対して一回のみ照射されることになり、走査周期が大きけれ
ばそれぞれの場所ではMPE以下の被曝とすることが出来るので、安全な使用が可能となる。但し、
走査機構が故障すると一定方向にのみレーザを出し続けMPEを超えることになるので、「
走査状
況をモニタして、走査を停止した場合には直ちにレーザを停止させる」機構を設け
る必要が有る。

3.3 全光路の安全確認ビームダンプ

 限定された区域で、レーザを発射して試験を行う場合(レーザを応用した計測器の校正や光軸調
整作業等)には、
発射する範囲を囲って「立入禁止としてかつ監視員を配置し、侵入者が有った
際には直ちに
レーザ発射を停止できる体勢をとった上でレーザを発射する。当然のことながら、
レーザビームが区域外に出ることのないように、
ビームダンプ用の衝立その他を設ける。あるいは
拡がりにより
MPE以下のレベルに下がるところまで、安全確認区域とする。これは「屋外に発射
する」とは言うものの「
発射区域は使用者の所有する敷地の中」という場合に適用出来るものであ
り、一般の人が自由に行き来できる場所に向けて発射する訳ではない。

3.4 レーダによる安全確認

 レーザレーダとしての計測のため固定した場所からレーザを発射する場合、ビルや人が登る可能
性のある山等固定している目標に対しては、走査に際してレーザがその方向に向かないようにする
か、向いた場合でもレーザが発射出来ないようにする
。 しかしながら、上空に向けてレーザ光を
発射するに際して、
遠方の航空機等の進入も想定しての安全確保が必要となる。
そのためにレーダを使用して検知する。

 レーザの発射方向に合せてレーダを走査するが、レーザとレーダでは波長の関係でビームの拡が
り角等も異なる
。本来は上記処置により発射を制限しているビル等よりレーザは上を向いていても、
ビーム拡がり角の大きいレーダではビル等からの反射も拾ってしまう。そのため、ドップラ効果を
利用して
移動している目標のみを検知する MTI(Moving Target Indicator) レーダと称する
ものを利用する。固定目標からの反射には反応せず、航空機等高速で移動する物体からの反射のみ
に反応するので識別が容易となる。

 但し、速度が極めて遅い「ハングライダー」や「熱気球」の進入の可能性まで考慮すると必ずし
も有効とは言えず、今後の課題として残ると考えられる。

3.5 アイセーフ波長のレーザの事前発射

 対象物(有害ガス等)の吸収波長に合致させた観測用のレーザ(必ずしも安全な波長とは限らな
い)
の発射に先立ち(約100μs前 秒速100mのものの移動量で1cm相当)アイセーフ波
長のレーザを同一方向に発射
する。発射方向に固体目標等があれば、大気の散乱に比して強い反射
となるため、レーザレーダの受信側に強い信号が受かる。受光信号の強度は物体の面積や反射率に
よる他に、距離の自乗に反比例して弱くなるが、大気等の散乱光も距離の自乗に反比例する点は同
じであり、反射光と散乱光の比較のみを考えればよい。この距離に応じて設定した
散乱光の受光レ
ベルより大幅に強い信号(アイセーフ波長)を受光した場合、固体目標からの反射と判断し、この
目標が「突然進入した物体で、
人間が乗っている可能性もある」ことを想定して、その直後に発射
する筈であった
観測用のレーザの発射を中止する

 このアイデアの詳細は、筆者らが出願した特許第2776253号に示している。この特許では
更に、各種のケースを想定して、安全には十分に配慮しつつも、問題の無い場合には可能な限り計
測が出来るような各種方策を示している。以下その方策等の概要を説明する。

・2項で述べた「アイセーフ波長のレーザでも多数のパルスまたは連続光に対しては安全度が低下
 する」問題があり、一つの目標に対して何回もレーザ照射をすることは好ましくない。一方、
 目標がレーザ発射方向から離れ去った後も用心してアイセーフ波長のレーザすら発射しないので
 は、観測に支障がでる。高速の物体は突然現れるが、また去って行くのも早い。一方低速の物体
 は比較的長くレーザの発射方向に留まる可能性が有る。
早く去ってしまったにも拘わらず、用心
 してレーザ光を発射しないのを避けると共に比較的長く留まっている物体に不必要に多数のレー
 ザパルスを浴びせるのを防ぐ目的で、レーザの発射間隔を段階的に変える
方策がある。

 例えば、当初発射後1秒で次のパルスを発射し、その時に固体目標からの強い反射を検知すれば、
 次は2秒後に、さらにその次は4秒後にというように間隔を2倍づつに広げて発射する。このよ
 うな形でのレーザ発射により、
数秒でレーザ発射範囲から離れる目標に対しては離脱後直ちに計
 測を行える反面、長時間留まっている目標に多数のパルスを照射することも防止
できる。

・走査して使用するレーザレーダの場合は、事前に固体目標と判断された方向のみはレーザを発射
 しないが、それ以外の方向にはレーザを発射することにより計測を継続
する。大気中の物質によ
 る散乱や有害物質の存在は方向により急激に変化することは少なく、ある程度連続性を有してい
 るので、仮にある方向のデータが欠落しても、他の方向のデータをもとに補完することもできる。

・雲や大量の煙等により、大気中のエアロゾル等による散乱に比べて極めて強い散乱光が生じる場
 合も考えられ、単に受光レベルのみを判断材料とすると「固体目標である」としてレーザ発射を
 停止してしまうが、
受光信号の波形も判断材料とすることにより「固体目標ではないので、レー
 ザ発射の停止は不要
」とすることが出来る。これは、固体目標からの反射信号は一定の距離(目
 標の存在する位置)からのみの
鋭い波形(レーザパルスの波形にほぼ等しい)となるが、雲や煙
 等からの散乱光信号
ある距離幅から戻って来る緩やかなものであり、受光信号波形全体を見る
 ことにより識別は容易
である。

・この特許にはその他主に距離計測等固体目標による強い反射光を利用する場合の例であるが、
 「初めは装置直前でも安全な出力のレーザを発射する」「その強さの光で検知できる範囲内で反
 射光が検知されない場合は、検知できる限界の距離でなら安全なところまでレーザ光を強める」
 「この強さの光ではより遠い距離まで反射光が確認できるが、それでも反射光が検知されない場
 合は、さらにその限界距離では安全なところまでレーザ光を強める」と
少しずつ安全を確認しな
 がらレーザ光の出力を増す
尺取虫方式」の計測法についても言及している。

4.参考図書の紹介

 JIS C 6802の最新版に基づき、その解説書である「レーザ安全ガイドブック」も4版に
 改版された。(平成18年9月25日付)
 3版では解説書としての役割の他に、JIS C 6802を始めとする規格や法規も掲載されて
 いた関係で改めてJIS C 6802の原本等を購入する必要はなかったが、4版では解説書に
 特化され、原本は添付されていないので「原本無しでは機能を発揮しない」ものである。
 これは、著作権問題等の影響であろうが、原本の購入が不可避である。

  JIS C 6802の原本は 日本規格協会のホームページ http://www.jsa.or.jp/ から
 規格・書籍のご購入 の覧の JIS規格 → 購入方法 ・・・ と進んでゆくことにより
 購入することができる。 カード決済等が可能で、郵送依頼かpdfファイルのダウンロードが
 可能である。 郵送は郵送料を要し日時もかかるが、pdfファイルをプリントアウトする際の
 手間と時間を考えると原本の購入がよいであろう。(価格そのものは同じ4620円である)
 原則コピー禁止のためpdfファイルで購入しても「全ページにウオーターマークが入る」こと
 原本には「著作権法により複製・転写の禁止」表示が全ページに入っていることを付記しておく。


 [参考図書 書名] 
レーザ安全ガイドブック 第  
            
 [発行所] 株式会社 新技術コミニュケーションズ
            
            ※編集 財団法人 光産業技術振興協会
 [価格]  8000円+消費税

 [概要]
 第1部 JIS C 6802の解説
 第2部 JIS C 6803(レーザ製品の安全 − 光ファイバシステムの安全)の解説
 第3部 レーザ応用機器の安全

  
第3版の特長のうち
 ・規格自体をとじ込んでいる
 ・
計算例が豊富で,実際の問題にJISを適用するための助けとなる
  という点について4版では継承されていない。(JIS C 6802に示されていない計算
  については幾つかの例が示されているが、付属書A計算例として原本では24頁に亘る計算
  に対して3頁程度の簡単な解説がなされているに過ぎない。)

 [使用する側から見て、良いと思われた点]
 ・
ふんだんにが使用され、JIS本体のみでは理解し難いものもよく理解できる。
 ・
写真(特にカラーで示された障害の状況等)が参考になる。
  ・レーザ応用機器の安全として、様々な
応用機器の安全策自主的に定めた安全基準が掲載され
  ている。
  これは
装置設計等に非常に役立つ
  但し、レーザレーダ等で
屋外に出す場合についての説明はない。我田引水のようになるが、
  
本ホームページで示した対策を参考にして戴ければ、幸いである。

 重ねて言うが、JIS原本とこのガイドブックとを併せることにより、JIS C 6802が理解
できるのであり、ガイドブック単体では不十分である。 補完しあっての存在なのである。

[参考資料] 屋外発射のレーザが航空機に及ぼす危険性 

Laser Focus World Oct.2000に掲載され、O plus E誌 平成12年11月号に抄訳されたものを

PennWell 社(Laser Focus World and WDM Solutions)(株)新技術コミュニケーションズ 両社の許可のもと

掲載させて戴く。

■屋外のレーザーが航空機に及ぼす危険性

 模擬操縦装置を用いた実験により,空港周辺における屋外用レーザーの出力を最大5μW/cm

に制限することを,米連邦航空局(FAA)は今年の初めに取り決めた。

 そもそもこの調査は5年前から始まったもので,ことの発端は,航空機の操縦士から,レーザー

ショー用イルミネーションが安全航行の大きな妨げになっているという報告が多く寄せられたこと

による。

その当時,レーザー出力に関する唯一の制限は,米国食品医薬品局(FDA)の指針であった。

これによると,眼に永久的な損傷を与える出力は2.6mW/cmとされているが, これは光に

よる空間意識の混乱や目のくらみといった操縦に影響のある問題点に関して考慮したものでなかつた。

 米自動車技術協会の委員会は航空機の安全航行の措針を作成するため,空軍,陸軍,FDA,レー

ザー製造会社,レーザー使用者,裁判所などの各代表から構成される学際的な団体を創設した。

 この団体は空港周辺における屋外用レーザーの出力を,最大5μW/cmに制限することを提唱

したが,これに対して,操縦士の団体から実験的な検証をすべきであるという意見が出され,実験を

行うことになった。

 実験はFAAがオクラホマ市に所有するボーイング727型の模擬操縦装置を使用して行われた。

 実験に用いたレーザーは波長532nmのNd:YAGレーザーであるが,被験者に対して危険の

ない程度にまで照度を落とている。レーザーからの光をファイバーで被験者の目に直接当てるととも

に,模擬操縦装置の画面には操縦士の視点から見えるであろう屋外用レーザーのビームを映し出す。

 実験を指揮したFAAのディラード氏によれば, このビーム径はだいたいバスケットボールくら

いの大きさになるという。

 レーザー光の照射の後,目のくらみや視覚に障害が生じてないかを確認するため,被験者が計器の

判読を瞬時にできるかどうかを調査した。実験終了後には,広範囲にわたるアンケート調査も実施さ

れた。22歳から69歳までの被験者に対して実験を行った結果,最初の操縦席での調査においては,

年齢による差違は確認できなかった。

 最終的にはデータの分析が終わったところで,屋外におけるレーザーの使用が航空機の操縦に与え

る問題点を記述した最新の報告書が,FAAから発行されることになる。さらに,FAAは空港から

半径10海里,上空1万フィートの領域が,屋外用レーザーの影響を受けるため,航空機の操縦に危

険な領域であると警告している。
                                  (Hassaun A.Jones-Bey)

 

                                   クラス2の説明へ

平成17年1月14日に旧版に追加した [緊急増補](レーザ発射に関する注意

 昨日のニュースで、米国で「航空機に対するレーザ照射によりパイロットが幻惑される事件が続
発」との報道があった。 多分(現在市販されている)レーザポインタのようなものと考えられ、
目に損傷を与えるレベルではなく、目眩まし程度の被害と思うが「航空機操縦中に注意が他の方向に
行く」ことは大事故になりかねない。そのため日本でも早晩何らかの規制が為される可能性もある。
 またそれまでにもレーザの屋外発射に関して冷たい目が向けられる恐れがある。 必要に迫られて
安全には十分に配慮して発射したものと、面白半分に空(航空機)に向けて発射されたものとは本質
的に異なるが、世間では十把一絡げにする可能性は濃厚である。 何か問題が生じた時に「レーザを
屋外発射した者」としてあらぬ疑いを受けるかも知れない。 そこで屋外発射を考えておられる方に
ご注意申し上げたいと思う。

・安全確保の方法(3.レーザ光を屋外に発射する場合に採られている安全対策 参照)

・上空を含めたあらゆる場所での被曝量の計算

 目に対して安全であるという点だけでなく、幻惑される問題についても検討する。

・屋外発射の目的

・どのような人々がどのような形で協議し、誰が発射の判断をしたか

・発射した日時、場所、方向、念のために事前に警察や消防に連絡した場合はその証拠等々

 以上の内容を文書等の形で残しておくことをお薦めする。 これを残しておいたから何かの折りに
責任を免れる訳ではないが、真剣に配慮して屋外発射したということを示すことにより、「悪質な」
とか「隠蔽体質」などとする批判は免れることも考えられる。 発射の判断をした人が「このような
形で文章を残すのは困る」と言うような状態なら発射を止めるべきである。軽い気持ちでの発射は、
厳に慎むべきである。「これこれの目的の為には、この実験(屋外発射)が必要である。そのために
これだけの配慮をした。」と自信をもった上での発射でなければならない。

 レーザの屋外発射に関しては、現在準拠すべき明確な基準がなく、JIS C 6802等をもとに
判断をしているが、これは目に対する損傷に関しては多くのデータをもとにした国際規格に準拠して
いるものの、
幻惑に関しては何らの考慮がなされていない。これに関しては前述の
屋外発射のレーザーが航空機に及ぼす危険性」等を参考にするのが現状では最も良い方法と思われる。
 
そこで示された5μW/cm以下にする(これ以下なら幻惑されずに済む?)との観点では、
市販のレーザポインタの出力最大5mWとして1000cm以上に広がると問題なくなる。
1mradの拡がりとすると距離が400m程度でよいこととなり、小型機が着陸態勢に入った場合
ぐらいしか考えられず、米国では素人が更に強い(可搬性のある)レーザの入手が可能なのか、
上記5μW/cmでも幻惑されるのか・・・等々の疑問が残っているが、他に根拠とすべきものが
見付かっていないので取り敢えずこれを根拠に検討をするのがよいであろう。

※もっと有力な(権威の有りそうな)規格・文献等をご存じの方は御教示下さい。

 幻惑問題はともかく、屋外発射の必要がある用途では「レーザ光が目に入れば損傷を受けるレベル
より遙かに強いレベルのレーザを発射せねばならぬ場合が多いので、恒常的な観測を行う場合は 
3.5 アイセーフ波長のレーザの事前発射に示すように目に対して安全な波長(当然のことながら赤外線
紫外線のため目が幻惑される可能性も少ない)のレーザの事前発射などを考慮したシステムとすべき
であるし、短期間の試験の場合は必ず監視者を立てて航空機が上空に無い事などを確認した上での
発射を心懸けるべきである。

 上述のように、現状ではレーザを屋外発射せねばならぬ者があらゆる可能性を考慮して安全対策を
行わざるを得ないが、これでは各人まちまちの基準となり「訳の分らぬまま文句をつける人に配慮す
るあまり、不必要に過剰な安全策」をとらざるを得ない。 願わくばきちんとした公的な基準が定ま
り、これに準拠すれば個々に不必要に大げさな説明をせずに済むように・・・。 但しこの基準は、
実際に屋外発射で苦労した者も参加して定めるべきであり、「ただ規制すればよい」とするような人
達のみで決めることは百害あって一利なしと考える。   
 

 

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