「絲しや」〜Itoshiya
「絲しや」を作って以降、時々「絲しや」の作り方や名前について書きました。
このページはそれを加筆したものです。
話すと長い「絲しや」話し、書いても長い「絲しや」話し。うんざりしながら流し読み。
あはは!
Chapter1 「絲しや」について

 最近、日本語の本がよく売れているようですね。
それを契機に、ついつい乱雑に使っていることばへの反省もしている昨今です。
そんな僕の、とても好きな日本語のひとつに「いとしい」があります。漢字を当てると「愛しい」です。
 でも、漢字になると、なにやら恥ずかしい感じで、いまいち感じが違います。
「いとしい」ということば、なんだかとても
「大切にされている」ような感じがするんです。
とてもやわらかな響きがあって。その感じに、僕なりのいとしいを当てはめたら「絲しい」になってしまいました。
「絲しや」はそこからネーミングした「きはだや」の商品名です。

Chapter2 「銘仙」への憧れから、「絲しや」として具現化した経緯。

 私が銘仙を初めて見たのは中学生の頃だったかと思います。家業はきものやでしたが、まだ全然興味の無い頃です。あの、色やデザインに魅かれ脳裏に焼き付いていたのが銘仙。その頃は、銘仙なんて言葉も知リませんでした。
 銘仙を強く意識したのは六年程前、十日町に戻った頃です。「おお!あのきものは銘仙というものであったか!」
と知った時から、「あんな楽しくて、ジャンクでポップなきものを作りたいなあ!」と思ったのです。
 日常着としてあれだけ昔は沢山生産されていた銘仙ですが、一般の本で銘仙について書かれたものは殆どありません。織物の本にところどころ登場する程度ですね。こんな銘仙への憧憬とこだわりから「絲しや」が生まれました。
 めいせんは古くは「目専」と書かれていたようですが、いつの間にか「銘仙」の字が当てられたそうです。
誰が当てたのかわかりませんが上手いものです。
 銘仙を見るとただ、柄が大胆だとか明るいとかと言うことだけでなく、つぎを当てたものや,
仕立て直して羽織にしたと思われるものに、目を引かれます。
「モノを買えずに直してばかりいただけ。」と言われればそれまでなのですが、「大切にされていたんだなあ」
という思いと、仕立て直すというきものの特異性を含めて、愛おしく思ってしまいます。
「銘仙」は織物の技術やデザインだけでなく、経年や時間や空気を含んだ不思議なきものです。
それは普段着としての位置付けもあるのでしょう。
「銘仙みたいな楽しいきもの」を作ろうとした時に問題だったのは、「銘仙とはなに?」ということでした。
糸は昔、木綿も使われていたようですが、多くは絹です。
文献には、絹紡糸、ガス糸等を使用とありましたが、実際には紡糸、生糸、玉糸と実に様々です。
 また、組織は平織りですが、縦、緯、あるいは両方に絣があります。かなり長い期間造られてきたので、
色、柄、糸使いも多様で、地風も様々です。再現するとしても、手本にするものがなかなか決まりませんでした。
随分、思案した結果、手元にあったぶどう柄の銘仙を手本にしました。

Chapter3 「銘仙」の配色

銘仙はデザインと併せて配色も独特です。強い紫や赤も「銘仙」らしい色と言えるでしょう。
しかし「「絲しや」は敢えて従来の色を変えてきはだやらしくしました。
嘗ての銘仙は照明も今ほど明るくなかったでしょうから、あの配色が必要であったと思いますが、
今ではもっとやさしい色の方が街や風景にあうのではないでしょうか?

Chapter4 「銘仙」であり「銘仙」でなし・・・「絲しや」です。

 一方、お客さまからは「絲しやは銘仙か?」というお問い合わせをよくいただきます。
どうでしょう?私的には「銘仙であり銘仙でなし」が正直な思いです。
「銘仙である」という点については、「絲しや」を見た人が皆「あぁ、銘仙ですね。」と言います。
そうなると私も「なるほど、銘仙か!」と思います。
 ナル程、見た目には「絲しや」に当るきものはかつての銘仙かもしれません。
「絲しや」は技術的には「銘仙」と殆ど同じです。

「銘仙でない」と言う点については、古着として残っている銘仙を見ると、なんというか「古着の持つ脂っこさ」
というか、「経年変化のもたらした味」のようなモノを感じます。この風合いを作るのはなかなか難しいですね。
(ジーンズにはストーンウォッシュのの様な加工がありますが、きものはそうはいきません)
「銘仙」の魅力はは織り方や、糸使いのような技術的なモノではなく、そのきもののもつ雰囲気のようなものかなあ?
と今では思っています。
 一方で、糸質があまりよくないためか、痛みやすい銘仙ですが、少しその欠点を補うために、使う糸を変えました。
それによって、少しは着やすくなったのでは?と思っています。
 こうした試行錯誤を経て「銘仙」のデザインや自由さを求めて「絲しや」を作ってみました。
私の持つ「銘仙」のイメージの具現と思っていただけるのがいちばん答えに近いかもしれません。
また、かつて銘仙がもてはやされた時代は今よりももっと電気も暗かったんだと思うのです。
それだけに銘仙のようなコントラストの強いきものも作られたのだと思います。
今回、「絲しや」を作るにあたっては配色は少しおさえめにしました。
やさしい配色を使う事によってより着やすいモノになっていると思います。
 そんな気持ちで作ったものですから、「銘仙」と名付けるには少し抵抗がありました。
それで、なにか新しい名前を考えなくてはならないと思い、随分と考えました。
ある方からは、「奥さんの名前とかにしたらいいじゃないですか」なんて言われて、
半分くらいその気になっていたのですが、そうともいかず呻吟しました。
結局、「いとしい」に「絲」を当てて「絲しや」とした次第です。

Chapter5 「絲しや」の着尺寸法へのこだわり。

「絲しや」の巾は、一尺五分で織られています。きはだやでは唐棧を含め一尺の巾の物が多かったのですが、
今では「唐棧」も「絲しや」も一尺五分で織っています。
 最近、お客さまの唐棧の仕立てを受ける場合、裄が一尺八寸と言う方が増えてきました。
少し長めに着る方が増えたせいもありますが、若いユーザーさんが増えてきたのが一番の原因かと思います。
 昔の銘仙は9寸3分から5分と当時のサイズに併せて、狭い巾で織られていてなかなか、
今の人のサイズに足りません。でも、きものの巾を一尺五分にしたところで、生地巾をフルに使うのは裄くらいで、
前巾、後巾は柄の6〜8割くらいしか表に出ません。
初めて作った「葡萄」や今回の「橘」も生地の中の柄付けに
難儀をしました
肩から胸にかけて十分な柄があって、前身や襟にその一部が出ても柄の雰囲気が伝わるような構成で作りました。

 こうした経緯から生まれた「絲しや」をお求め下さった方々が、長く愛しんで下さればと思っています。

                                        きはだや店主