ヘルスエンパワメント、ヘルスリテラシーそしてヘルスプロモーション

〜すべてをまとめて考える

John Hubley,  Leeds, Feb 2002

http://www.hubley.co.uk/1hlthempow.htm

1980年代での国際的な場において、コミュニティ参加(Community Participation)という用語は、興奮して語られる騒がしい用語であった。1990年代には、エンパワメントと言う用語が広く用いられた(乱用された)が、その上に新しくヘルスリテラシーの概念が現れた。その概念を善意で解釈すれば、発展する学問のダイナミックな現れであろうが、別な見方をすれば、過剰な用語の一つであり、健康教育やヘルスプロモーションの持続的な不安定さの現れでもあるし、焼き直し的再発見とも言える。ここでは、これらの用語について簡潔に述べ、それらの用語をどう束ねて、どう学問を前進させ、どう活動を展開すべきかを述べたい。

エンパワメントには複数の起源がある。心理学分野では、コントロールの所在感覚や社会学習理論からでたセルフエフィカシー(自己効力感)にもそのルーツを持つ。また、ブラジル人のパウロ・フレイレの業績から導かれた成人教育理論にもその源を持つ。彼の根元的な成人リテラシーメソッドは、共に理解するという考え方に基づいたものであり、それは、批判的(クリティカル)な理解、熟考、行動、そこからの学習などのダイナミックなプロセスであった。1980年代の過激なフェミニストヘルス運動では、「意識・自覚を高め元気づける(consciousness raising)」という用語を用いた。

エンパワメントは、必ずしも明確に理解されているわけではないが、参加的学習方法の理論的根拠となっている。参加的学習とは、従来の知的教育や行動変容といった特定の達成点にむけたものというよりも、プロセス的な成果を強調するものである。戦略としてのコミュニティ開発は、コミュニティの力の開発や意志決定への参加をずっと強調してきた。1980年代のコミュニティ開発では、さらに重要な方法論としての参加的地域評価方法へと発展していった。

集団的なパワー開発方法としてのエンパワメントの概念には重大な瑕疵がある。ヘルスプロモーションのためのエンパワメントにおいては、この側面は非常に重要である。確かに、健康教育プログラムの評価が繰り返し明らかにしていることは、知識上での変化は、行動上の変化や健康状態の改善を必ずしももたらさない。明らかな教訓として、知識のみでは不十分で、生活を変えることができるという自信感覚を人々が持つ必要があるということは言える。しかし、その逆のことはよく理解されていない。自信やパワーだけでも不十分なのである。このことを健康改善の面で言えば、情報を共有した上での健康的な意志決定のためにも、健康課題の理解が必要なのである。

ヘルスリテラシーの概念が、エンパワメントの概念を再定義するのに、何らかの現実的な便宜を与えるように思えるのは、正にこの点である。ヘルスリテラシーは様々に定義されてきた。その考え方はもともと、個人が教育された知識を理解する能力を測定するのに用いられ、機能的ヘルスリテラシーインデックスが、その測定研究ツールとして開発されている。ナットビームは、彼のヘルスプロモーション用語集において、厳密な認知的側面から概念を発展拡大させた。

「ヘルスリテラシーとは、認識面でのスキルや、社会生活上のスキルを意味し、これにより健康増進や維持に必要な情報にアクセスし、理解し、利用していくための、個人的な意欲・動機や能力を表すものである。」

この定義は、健康課題についての基本的な理解や健康情報の解釈といった認知的要素のみならず、それを意志決定に活用するということをも含んでいることに意義があろう。そのことは、意志決定を実行に移す際に、コミュニケーションやアサーティブネスや交渉などのライフスキルが必要なのと同様である。興味深いことに、それには社会的スキルが含まれていて、情報の理解や処理といった問題だけでなく、その情報を用いて変化を引き起こすことも含んでいるのである。例えば、他人とコミュニケートするとか、プレッシャーに抵抗するとか、他人を説得するとか、個人や家族や地域活動を組織化するといったことである。しかし、ヘルスリテラシーの中に、動機を含めることは混乱の原因になりそうなので、それはセルフエフィカシーの心理・感情的な側面に入れた方が良かろう。

私は、ヘルスリテラシーとセルフエフィカシーが、以上で述べたようなヘルスエンパワメントの二つの重要な構成要素であると考える。

 

ヘルスエンパワメント = セルフエフィカシー  +  ヘルスリテラシー

 

* セルフエフィカシー:(心理・感情的/認知的側面)
高いセルフエスティーム、パワーとコントロールの感覚、行動への自信、状況を変えられるという信念

* ヘルスリテラシー:(認知面/コミュニケーション)

健康と病気の理解、意志決定スキル、健康課題を話し合う能力

 

このアプローチの良いところは、ヘルスエンパワメントの認知的側面と心理・感情的側面の両面を明らかにしていることである。従って、それは、どのようにエンパワメントのプロセスが組み立てられ、既知のセルフエフィカシーや意志決定やライフスキルの開発プロセスが融合されるかを示す。

ヘルスリテラシーは健康教育のプロセスを通じて達成されうるが、それは健康課題の理解を高め、どのように意志決定に活用していくかというプロセスである。しかし、多くの伝統的な「トップダウン」のお説教的な健康教育法では、知識を提供しても、人々を、専門家に依存するようなパワーレス状態にしてしまうという否定的な効果しか持ち得ない。コミュニティの自信やパワーを損ねないような教育的プロセスで、知的な情報提供をすることは、挑戦的な課題ではある。

セルフエフィカシーは様々な方法で達成可能であるが、その方法とは、セルフエスティームを高め、個人やコミュニティの生活や環境に及ぼすパワーを開発していくものである。これは生活のすべての面で応用可能であり、例えば、住宅や家計収入上の活動、コミュニティの参加や国レベルの民主化ということでもあり得る。また、それは、単純に新しいスキルを学ぶといったことにも応用できる。例えば、農業とか、裁縫、調理、音楽や劇などの芸術表現などにも使える。健康に関する他の活動を行っていて、コミュニティが既に
セルフエフィカシーを高めているような状況では、ヘルスプロモーターはそれを基盤にして、短期間に容易に学習プロセスを構築することができる。

参加的学習方法を用いた健康教育によって、ヘルスリテラシーとセルフエフィカシーの双方を高める方法を生み出すことができる。

近年、私は途上国でのヘルスプロモーション介入の評価についてのデータベースをまとめた。このデータベースでは、残念なことに、エンパワメントが高められたことを示す質的量的な研究方法を用いた評価報告は見あたらなかった。評価研究が無いと言うことは、つまり、実証主義の範囲でしかうまく機能しない評価方法への批判を意味しており、その方法では、全く異なったパラダイムを求めるようなエンパワメントアプローチの目的や意図を適切に表現できないのである。

しかしながら、私が考えるには、評価が困難であるということは、要するにエンパワメントがうまく定義されていないということが問題なのである。この論文で提唱したモデルによって、健康でのエンパワメントの評価を、より単純なプロセスにすべきであろう。つまり、エンパワメントを二つの要素(セルフエフィカシーとヘルスリテラシー)に分けて、より明白なかつ測定可能なものにしていくことである。

翻訳文責:佐甲 隆