上下プリズム処方の臨床例
JOAジャーナル Vol.10 No.1 1992
中 村 尚 広
Abstract

物を見る時に、片眼を使っていないという自覚のある被検者に対して、その原因と考えられる上下方向の眼の偏位を上下プリズムを利用して処方した例をここに紹介する。

1.臨床例

(被検者)
◎男性19歳 専門学校学生

(91.6.29)
(間診)
・昨年12月よりメガネをかけ始めた。
・疲れ、頭痛なし。
・特記すべき病歴なし。
・健康状態良好。
・コンタクトレンズ経験なし。
・首を左に傾けようとする癖がある。
⇒上下の両眼視機能低下が疑われる。

(主訴)
・現用メガネでは曇った日とか見にくく感じることがある。
・時々、片方の眼がついていってないと、他人から指摘されること(左横を見た時)があり、自分でも右眼を使っていないと感じることがある。

(裸眼視力)
Far:OD 20/60〜20/50
  OS 20/50〜20/40
  OU 20/50〜20/30
(測定するたびに変動する)

Near: OD 1.0
    OS 1.0
   OU 1.0

(現用メガネでの視力)
Far:OD 20/25
   OS 20/25
   OU 20/25
Near: OD 1.0
   OS 1.0
   OU 1.0

(現用メガネ度数)

OD S-1.00
OS S-0.75(PD 63)

(現用メガネでの両眼視テスト)
ステレオフライ・・・立体視なし
Worthの4燈
Far:Grade C/複視
(赤2つ・緑3つ計5つの光が見える。)
Near:Grade C/複視
(赤2つ・緑3つ計5つの光が見える。)
深視力・・・・・・正常

(予備検査(裸眼状態))
カバーテスト:(Far) R Hyper phoria
      (Near) R Hyper phoria
NPC:途中で右眼がBreak(5cm)するにもかかわらず、「2つに見える」との返答なし。
NPA:10 D
利眼:左眼

<#2>
OD 39.87@180 40.75@90(-0.88Ax180)
OS 40.75@180 41.87@90(-1.12Ax180)

<#4>
OD S-1.25
OS S-1.25 C-0.50 Ax180

<#7>
OD S-1.00 C-0.25 Ax120 VA 1.0
OS S-1.00 VA 1.0

<#7A>
OD S-1.00 C-0.25 Ax120
OS S-1.00 VA 1.0(OU)

(その他のデータ)
#8:4僞SO Phoria(プリズム分離法による)
#12: 8儚 Hyper phoria(プリズム分離法による)

Ductions(OD):-2/-2(Inf) 16/16(Sup)
#13B:Ortho
Gradient AC/A:-6/+1.00
# 18:15儚 Hyper Phoria(プリズム分離法による)

Ductions(OD):3/-5(lnf) 25/16(Sup)
# 20:OU -1.00/0.00(Net)
# 21:OD +3.50/+2.50(Net)
OS +3.25/+2.25(Net)
OU +1.00/+0.50(Net)
ポラテスト: 9儚 Hyper Phoria

(9凾aDを加えて#7Aの確認)
OD S-1.00 4.5傳D VA1.0(OU)
OS S-0.75 4.5傳U
#20:OU -4.00/-2.50(Net)
#21:OU +3.25/+2.00(Net)

(仮枠にて両眼現状態を確認)
ステレオフライ・・・立体視あり(50秒)
Worthの4燈・・・・・Far :GradeA→正常(4つの光点が見える。)
          Near:GradeA→正常(4つの光点が見える。)
深視力・・・・・・・正常

(91.7.3)再検査
・ポラテストによるプリズム量の確認⇒9儚 Hyper Phoria

(最終処方)

OD S-1.00 4.5傳D VA1.0(OU)
OS S-0.75 4.5傳U (PD 63)

2.その後の様子

 ( 91.10.15 )にその後の様子を伺ったところ、在宅中はほとんど常用しており、見え具合は快適で特に近方視状態で集中できるようになった、ということであった。
 ただし学校では、上下プリズム付きの眼鏡のため眼が上位に偏位して見え、それが気になって授業中しか装用していないようである。

3.考 察
 上下プリズム処方については、それまで低下していた両眼視機能がアップするということがWorthの4燈検査・ステレオフライテストや#21のネット値などにより確認できた為、今回プリズム処方が必要であると最終的に判断した。
 今後、この被検者がメガネを常用することにより、眼位が落ち着き、上下斜位により誘発されていた調節が緩和されれば、多少屈折度数が弱度側へ変化するということも考えられるので定期的に検査を行う予定である。
 また、近方視状態で以前に比べかなり集中できるようになったようなので、彼の学校での成績も上がってくれるのではないかと期待している。
 
4.まとめ
 急激な上下への眼位の変化は、疾患が原因で両眼視が困難になったという可能性も考えられ、問診が非常に重要になる。
 その結果によっては原因を追求し、適切な医師に紹介することを、我々は念頭にいれておかなければならない。(完)