球児の活躍生む眼球運動
情報を瞬時に判断・打撃フォーム安定
新潟新聞(平成13年5月21日)
   

「ポールが止まって見えた」。打撃の神様、と称されたバッターはかつて言った。
米大リーグ・マリナーズで活躍するイチロー選手。一流のプレーを支えているのは、並外れた運動神経と優れた動体視力だ。
スポーツ界で目と身体運動のつながりが、見直されている。
目に磨きをかけることで、スポーツ選手の運動能力をさらに高めようとする「ビジョントレーニング」(VT)。
スポーツのしベルアップという大きな目標に向けて、VTの実践と研究が新潟県内の選手の間でも広がっている。


 「左の眼球運動が不安定。インコースにバットが出ないんじゃないか」「目を縦に動かすスピードが足りない。低めは不得意?」柏崎市の新潟産業大付属高校野球部で4月18日に開かれたVTの講習会。視覚行動研究所(新潟市西堀通五)の野沢康代表は、事前に行った目の検査データから、各選手に打撃や守備で問題になりそうなケースを問い掛けた。
 遠藤鉄也監督は「これまでの指導は監督の経験と感覚に負う部分が多かったが、データの裏打ちによって自信を持って指導できる」と手ごたえを語った。

 VTとは、動いている目標物を正確に追う眼球運動能力や、目標物までの奥行きをつかむ立体視能力、目で得た情報で身体を瞬時に反応させる情報処理能力を総合的に高めるものだ。
 野沢代表は「視覚と身体運動とのつながりを良くするためには、目から情報を取り入れようとする意識も含めて強化しなければならない。単に動体視力を鍛えるのとは異なる」とVTの奥深さを力説する。

 たとえば眼球運動は、投手が投げた球の軌道をバットで打つポイントまで追うときに必要だ。投手はマウンドからホームベースまでの奥行きをつかむことで安定した投球ができる。バントを処理しながら視界の片隅をよぎる走者の動きを見て、どの塁ならアウトにできるかを判断するとき、情報処理は威力を発揮する。
 眼球運動の代表的な練習法はトレーニングボードとブロックストリング。トレーニングボードは縦35cm、横50pの紙を顔の前に掲げ、ボード上であらゆる方向に目線を動かす。ブロックストリングは5pから1mの間隔で5つのビーズを付けた糸の端を鼻の前で固定。遠くから近くへ、近くから遠くへとビーズに次々に焦点を合わせる。これらが立体視・情報処理能力を高める基礎にもなる。

 目には個人差があるため、それぞれの特徴を知り、効果的な練習をするための検査が必要になる。項目は視力、意識して物を見ていないときの目の向き(眼位)、両目を近くに寄せたときと、寄せた両目を元に戻すときに動いた角度、ピントを合わせる力など。視力が悪かったり、上下方向に眼位がすれていると運動の障害になるため、眼鏡で矯正するよう勧める。両眼を上下、左石、斜め方向に、正確に、滑らかに、遠く動かせるかどうかが重要なポイントだ。目の動きをビデオに録画して問題点を探し出し、不得意な動きは重点的に練習する。


 VTの提唱者は田村スポーツビジョン研究所(大阪府吹田市)の田村知則氏。田村氏はプロ野球のオリックスのトレーニングを手がけており、イチロー選手も指簿を受けた一人だ。
 新潟明訓高校野球部の佐藤和也監督1998年3月、同研究所を視察。「新潟のスポーツのレベル向上には、他県をりードする何かが必要。発展途上のVTを新潟に根付かせたい」と考えた。眼科で視力検査の仕事をしていた野沢代表は佐藤監督に賛同、田村氏からVTを学び、99年から同高の指導を始めた。佐藤監督は「打撃にはいろいろな要素があるのでVTをやればヒットが出るとはいえないが、顔を動かさず目で球の軌道を追うことで打撃フオームは安定してきた」と成果を語る。
 VTでは目のデータを総合し、意識が1点に集中しがちだったり、分散しがちといった物の見方の特性を分析。蓄積したデータから「思い詰める」「あきらめが早い」などの性格まで導き出し、練習や試合の際の注意点として伝える。野沢代表は「VTの本来の目的は試合で運動能力を100パーセント出し切ること。データをもとにどんな練習をすれば、いい結果に結びつくのか。選手と指導者、私のようなビジョントレーナーがー体となって考えていきたい」と語る。
 目を鍛える。勝利への挑戦は進化し続ける。