T.はじめに
「レンズを薄く、そして軽く!!!」というのが、現在の一般的な日本人の感覚であるように思える。
時代は移り変わり、生活の中においても牛乳瓶の底のようなレンズを装用しているメガネユーザーはあまりみかけなくなってきた。
その傾向を追ってか、メーカーサイドではどれだけ屈折率を上げ薄いレンズを作れるのかの競争が激しく展開されている。
レンズ名だけを例にとってみても、当初は高屈折率レンズとして店頭で売り出されていたのが最近では、超高屈折率レンズまでもが製造販売されている。
現在の日本のレンズメーカーの技術テクニックは世界でも認められており、10年前にくらべるとかなり薄いレンズが発売された。
しかし目覚ましい技術、商品改革の裏側で多少の問題点が存在する事は残念ながら否定できない。
その問題点の一つとして色収差が考えられる。
レンズを薄くする、屈折率が高くなる、アッベ数の低下、色収差の増加、視力への影響、という事実はこれまでに業界で発表された様々な文献、あるいはレンズの周辺部を見たときの『色づき』により、眼鏡従事者にはかなり理解されている事と思う。
色収差による視力への影響は、多くの人が経験したことがあるのではないだろうか。
上目使いで蛍光灯見たりしたときなどに、その緑が青や黄に色づいて見えたり、21項目検査のなかでも#16、#17(近方の内よせ、外よせ)検査時にプリズムを付加していくうちに近方指標がにじんだりすることがある。
今回私は、この色収差が見え具合に与える影響についてビステック社の、MTF指標を用いて検討した。
U.色収差について
物質の屈折率は波長によって異なり、赤色に対する屈折率は青に対する屈折率より小さい。
このため種々の波長の光が混じっている白色光をプリズムにとおすと、それぞれの色に分離してしまう。
この現象をプリズムの色分散と呼んでいる(図1)。
レンズの色収差には、焦点位置の光軸方向のずれを起こす軸上(縦)の色収差と、結像倍率の差を起こす倍率(横)の色収差があるが、鵜飼氏によると、眼鏡レンズで問題となるのは、後者の方の倍率の色収差であり、前者による影響はほとんど無い。
色収差はしばしば色のニジミの事のみを考えがちであるが、それだけでなく色のずれによる像のボケつまり「視力低下」をももたらすと言う事がこれまでに発表されている(一般に1Δごとに3%の視力低下が見られると言われている)。
図2は縦縞をみた時に色収差によっておこる分散が目にどの様にうつるかを示している。
プリズムに白色光を入射させると、白縞の両側(緑)に分散された光が出現し、赤〜紫までのスペクトルを作り出す。
人の目はそのスペクトルの全てを知覚することはできないが、レンズの周辺などのプリズム効果のある物質を通して物体をみると、その物体が色づいて見える。
そこで図2のように縞のすきまを判断する事ができないという状況がおこってくる。
分散の量はプリズム度とアッベ数から
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で与えられる。
V.予備実験
ランドルト環を上と下方向のみで
2.5m先に掲示して、バーネル社のルースプリズムとプリズムバーを眼前に装用し、視力の低下具合を測定した。
この時の被験者は、完全矯正されており乱視の未矯正は無かった。
また測定眼は右目で、プリズムは全てB.I方向とした。
プリズム装用による視力変化を表aに示す。この実験により視力に関して、プリズムが10△以上(渡辺氏によれば、12△以上)になると影響が現れると言う事を確認して、本研究に移っていった。
W.MTFについて
MTF(Moduration
Transfer Function)は、日本語で空間周波数特性またはコントラスト感度特性と表現されている。
MTFと言う概念が、私たちの携わるオプトメトリーの世界に導入されたのは、それほど古いことではない。
元来視力測定には、ランドルト環やひらがな視標、アルファベット視標が使われてきた(図3)。
これらの視標は、濃淡のコントラストがはっきりしており(ほぼ100%)、どの程度の細かさまで区別できるのかという最小分離能の限界を測定するものである(図4)。
この方法は、簡便であるという長所を生かし視機能を評価するにあたって古くから利用されてきた。
しかし、日常視環境において、私たちが目にするほとんどの物体が、コントラスト100%で、濃淡の差がはっきりしているとは言いがたい。
そんな現実世界における様々な物体を知覚する能力(コントラスト感度)は、通常の視力検査方法だけで把握することは不可能である。
そこでこういった形態覚機能を、より定量的に評価する方法として、このMTF測定が導入された。
視力の限界だけではなく、粗い物体の見えかたを調べる為に用いられるこのMTF測定では、はっきりとした輪郭をもたず、しかも明るい部分と暗い部分の明度差の少ない模様に対する認識能力を測定する。
つまり正弦波形的に濃淡を変化させた縞模様(図5)を見て、どれくらい低いコントラストまで見えるかを測定するのである。
本研究では色分散が与える影響について調べる為、5種類の正弦波格子縞それぞれについてコントラストを8段階に変化させた図形を使用して、縞模様を認めうる最小のコントラスト感度を測定した。
近年このコントラスト感度(MTF)測定が、徐々にクローズアップされており、その視標についても手作りのものから、市販されているものまで、各種登場している。
X.視標(ビステック社、VCTS6500)について
MTF(コントラスト感度)の測定視標には、大きく分けて@レーザー光による干渉縞を直接網膜に投影するものAブラウン管上に表示するものB印刷した縞模様がある。本研究で使用したのはタイプBで、米国をはじめ27カ国でもちいられてきたビステック社のVCTS6500である。
これは空間周波数について5種類(1.5,3,6,12,18 cyc/deg)、域値前後のコントラストでおよそ0.2対数単位ごとに8段階(ゼロコントラスト=BLANKを入れると9段階)の視標を一枚の表に並べたものである(図6)。
表の大きさも視力検査表より少し大きい程度でおよそ視力検査表と同じ感覚で使用できる。
各々の図形は右に少し傾いたもの、左に少し傾いたもの、真っ直ぐなものの3種類からなる。
この視標の特徴は厳密な測定には向かないが、測定が非常に簡便であるということである。
又、その測定値のカーブの傾きにより屈折状態を調べたり、各種疾患(白内障、緑内障、網膜剥離など)の治療経過を定量的に追跡したり、相当する視力を予想することなども可能である。
図形が左右に少しずつ傾いているため、B.Iプリズムの誤差とはなるが、ほんのわずかであり、それについては無視した。
Y.実験方法
(a)実験器具
@MTF視標(米国ビステック社VCT6500)−被験者から視標までの距離は3mとし、その高さは1.4mとした。
A仮粋−利用した仮粋は、TOC社の物でP.D、頂間距離、傾斜角、レンズの高さが調整できレンズは左右合計8枚まで装着可能な物である。
B各種プリズム−式(1)よりわかるように、分散の大きさを決定するファクターはプリズムパワーとアッベ数である。それらを比較するために今回は、アッベ数を4種類とプリズムパワーを4種類用いて検討した。
準備したプリズムは次のとおりである。
アッベ数58のガラスレンズ(5,7,9△)
アッベ数35のガラスレンズ(5,7,9△)
アッベ数31のポリカーポネートレンズ(5,7,9△)
光学定数が不明のフレネル膜プリズム(5,7,10△)
これらのプリズムはレンズパワーが0である。
レンズにパワーがつけば焦点結像位置に関連した、非点収差やコマ収差など色収差以外の要因が影響してくる。
よってここでは、可能な限り純粋な色分散の影響を調べたい為、このようにパワーが無いプリズムを特別に準備した。
又そのプリズムをなるべく、日常利用しているメガネに近づけるために、45φ径に加工して仮粋ホルダーにセッティング出来るようにした。
(b)実験環境
@実験室の広さは奥行き6.2m、幅2.7m、高さ2.25mの部屋で行った。
A照明状態は40ワットの蛍光灯を6本(天井から)と、視標の照度を均一にするためのクリップ式蛍光灯を1本使用した。照度は、視標のコントラストに大きな影響を与える事を考慮して実験の前に、視標の四隅の照度を測定し、410〜420ルクスに統一した。
(c)被験者−実験対象者は以下の条件を満たしたものを13名選択した。
@メガネで完全矯正が可能である事。
A矯正状態で1.0の視標が明視出来る事。
B視機能に問題が無い事。
C色覚異常が認められない事。尚、年齢構成は18〜23歳である。
(d)実験方法
@完全矯正値の確認。
A仮粋に完全矯正度数をセットして3m前方のランドルト視標で、視力が片眼で1.0以上あることを確認。
B被験者の視標の高さをMTF視標の高さに合わせて、片眼を遮蔽する。
CプリズムをB.I方向にセットし、まずは、MTF視標の1.5cyc/deg(最も粗い縞模様)の列(図6のA列)でコントラストの高い方から順番に見てもらい、その縞模様が右、左、上の、どの方向に向いているかを質問する。この時、視標を追っていく際に、目だけで追うのではなく顔ごと動かしてもらい、なるべく矯正レンズの収差の少ない中心部でみてもらうように注意した。
D被験者が最初に間違ったところ、または判別出来なくなったところをチェックしてそのコントラストの番号を記録する。
E続いてBの列、Cの列、Dの列、Eの列と計5つの空間周波数について同じように記録する。
F次にアッベ数又は、パワーの異なるプリズムをセットして4〜6の操作を繰り返す。ここで全ての種類のプリズムについて検査を行うため、かなりの頻度で視標を繰り返して見ることになる。その練習効果が心配された為、あらかじめアッベ数とプリズムパワーより計算した分散の大きい方から順番にプリズムをセットしていった。
G全ての種類のプリズムが終わったあとに、プリズム無しの状態(矯正レンズのみ)で、4〜6の操作を行った。
(e)記録用紙(Evaluation Form)について−
記録用紙はビステック社より出されている専用の物を使用した。
その実物を図7に示す。
まず縦軸にコントラスト感度(コントラスト域値の逆数)が対数目盛りでとってある。
そして横軸には縞パターンの周期を同じように対数目盛りでとってある。
検査のときは被験者の返答に沿って各周期ごとに感度をプロットしていき、検査終了後その点を線で結んだ。
Z.実験結果
(1)各種プリズムを入れた時の各周波数におけるMTFの平均値と標準偏差、及び95%の信頼区間を表1〜3に示す。
(2)プリズム無(矯正レンズのみ)の時の各周波数におけるMTFの平均値と標準偏差、及び95%の信頼区間を表4に示す。
(3)表1〜3のデータをグラフ化したのが、グラフ1〜3のa〜dである。同時に表4のプリズム無のデータを各グラフ上にのせて、比較をしている。また信頼区間はΙの幅で示してある。
(4)グラフeは、グラフa〜dをまとめたものである。
(5)プリズム無の時と各種プリズムを加えた時の平均値の差について、対応のあるT検定の結果をまとめたものが表5である。
各種プリズムを加えた時のMTFのデータを、表、グラフ、検定の順にいろいろな形でまとめたが、そのうちにでもグラフは色収差の影響を最も定量的に表現しており、大きいパワーのプリズムまたはアッベ数の低いプリズムほどその影響が大きいことがうかがえる。
またグラフ上にはそのデータの信頼区間を
の幅で示すことにより各ポイントにおけるデータのばらつき具合を表した。
プリズム無の時の
信頼区間とプリズム有のときの
信頼区間の重なりが少ないほど各ポイントにおける差が顕著に現れたことになる。
その差の信頼度について、有意水準別T検定の結果を表5に示す。
ここで有意水準を0.001(0.1%)で有意差ありというのは99.9%の確率でその差を信頼できる事を意味する。
[.考察
《各種プリズムの色収差量についての考察》
グラフ1〜3−a〜dとグラフ1〜3−eを比較してみると、アッベ数が低くなるにつれてMTFが徐々に低下していく様子をプリズムパワー別に見ることができる。
アッベ数の減少にともなうMTFの低下は、当初予想していたとおりの結果である。ここでもう少し詳しく各データを検討してみる。
ドイツ・カールツァイス社の文献によれば、レンズの色分散量の許容範囲は『色分散量P/ν≦0.12』とされている。
今回使用したプリズムの中では、アッベ数58の5Δ(P/ν=0.09)と、アッベ数58の7Δ(P/ν=0.12)がこの許容範囲内に入る(表b参照)。
そこで表5をみるとこれらの地点ではプリズム無しの時と有意に差があるとは言いがたい。
次にアッベ数35の5Δに注目する。このプリズムは今回使用した中で三番目に色分散量(P/ν=0.14)が少ないものである。
これは、色分散量の許容範囲には含まれていない。
同様に表5をみると、このプリズムのところは、すべての周波数(ポイントA〜D)において、95%の信頼性で有意差がありとなっている。
これらの分析から、MTFの視標においても色分散量の許容範囲の境界が0.12付近にある事が言える。
他のプリズムについては、色分散量がさらに大きく、色収差がMTFに与える影響も増大している。
《各周波数(ポイントA〜D)についての考察》
グラフ4−A〜Eは、今回使用した各種プリズムの色分散量を横軸に、MTFを対数目盛りで縦軸にとったものである。
これらのグラフは分散が大きくなるにつれてMTFが低下していく様子を示している。
ポイント別に見ると、ポイントD、E(細かい縞)よりも、ポイントA、B(粗い縞)の方がグラフの傾きが小さく色分散の影響を受けにくいことがわかる。
ポイントA、Bにおいて、縞の空間周波数が小さくなれば明暗の間隔は広くなり、分散されたスペクトルの重なりは少なくなる。
よって、色分散の影響が小さい。
また逆にポイントD、Eにおいて縞の空間周波数が大きくなれば明暗の間隔は狭くなり、分散されたスペクトルの重なりは多くなる。
よって、色分散の影響が大きい、ということは予期していたが、あらためて確認することができた。
この事実を日常生活において考えてみると、普段よく目にする大まかな輪郭をもつ物体には色分散の影響は少ないが、その大きさが細かくなればなるほど、影響が大きくなると言い換える事ができよう。
次に正常な人のコントラスト感度が最も高いと言われている4〜6cyc/deg部分(ポイントCの縞)について見てみると、グラフの傾きはそれ程大きくなく、この部分での色分散の影響はそれほど大きくない。
ここで今回使用した九種類(3アッベ数×3プリズムパワー)のプリズムのデータが一つの曲線上にのっている事に注目したい。
これはMTFの低下の原因が色分散量Δ/νだけであることを示している。
もしこれらの点が各ファクター毎にばらばらであれば、この実験において色分散以外の要因が、感度低下に大きく絡んでしまった事になるが、データには偶然誤差以外の要因が関与している徴候はみられない。
実際、薄プリズムの色収差以外の収差は無視できるほど小さい(付録参照)。
《ビステック社考案の検査用紙(Evaluation Form)による、相当する視力についての考察》
ここでは今回のデータからビステック社の検査用紙に示してある相当する視力を求め、表6にまとめた。
この相当する視力は、ビステック社独自のものであるため、一般に私たちが測定する視力とは多少の相違があるかも知れないが、おおよその目安にできる(表6)。
これよりアッベ数58について見ると、その視力低下は最大の9Δにおいてもそれほど大きくない。
おそらくこの程度であれば被験者はこの事実に対しあいまいであろう。
次に、アッベ数35では最大の9Δにおいて、その視力が0.7となっている。
20/15(1.2)まで見えていた人がここまで視力低下すると、たいていの人はそれを自覚する。
さらにアッベ数を下げた31においては、その視力が0.5まで低下しており、色収差の影響を目の当たりにする。
MTFの測定値は一般の人々にとってはなじみの薄いものであり、前述したような視力値の換算によって形態覚機能をよりわかりやすい数値で示すことができる。
表6によれば、各種アッベ数の5Δのところでその視力は20/20(1.0)である。
だがMTFのグラフによると、同じ1.0の中にもその低下の仕方が微妙に異なることが見られた。
このことからも視力をもう一歩深めたのがMTFであると言うことができる。
今後検査において、この特徴をうまく利用していけば、より正確に形態覚機能を把握できよう。
《フレネル膜のアッベ数予想》
考察の最後に、本実験で使用したフレネル膜についてふれてみる。
フレネル膜は幼児のプリズム処方などに比較的簡単に用いられる膜プリズムである。
薄くて軽く、手軽に交換可能な為、時々みかけるが、やはりその構造上、視力に影響を及ぼすことがこれまでに発表されている。
今回の実験では対照実験の意味を含めてこのプリズムを使用したが、その結果は先に示したとおりで、どのポイントにおいても感度低下が顕著に認められた。
そこで光学定数が不明なこの膜プリズムのアッベ数をグラフ4の傾きより推定してみることにする。
まず各フレネル膜プリズムの感度が平均感度の曲線と交わるところによりそのフレネル膜の分散量を決定し、その値を公式(1)に代入してアッベ数を計算する。
これを各々のグラフについて行い、平均値をとった。
その結果、フレネル膜プリズムのアッベ数の推定値は
となった。
グラフ1〜3−eにおいてアッベ数30.7とアッベ数31のガラスプリズムの曲線を比較すると、グラフの傾き具合はほとんど似ている。
この事は大変興味深い事である。
もし実際にフレネル膜のアッベ数が測定でき、その値がこの推定値に近ければ、フレネル膜によるMTF低下の要因はほとんど色収差によるものであり、推定値よりも大きいのであれば、膜に刻まれた縦線やその他の要因が絡んでいたものと思われる。
\.結論並びに結語
今回私は、『プリズムの色分散がMTFに及ぼす影響』について実験し、検討した。
ここに結論をまとめる。
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(結果1)
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従来より示されてきた『色分散量≦0.12』という許容範囲が、MTFからも確認できた。
アッベ数が小さくなればなるほど、そしてプリズム値が大きいほど色分散量は増加し、MTFに与える影響も増す。 |
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(結果2)
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色収差は、MTF視標(正弦波格子縞)の空間周波数が低い所(縞の幅が広い所)よりも、高い所(縞の幅が細い所)において、その感度に大きく影響を与える。 |
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(結果3)
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色収差はMTFばかりではなく、相当する視力にもその影響を与える。
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(結果4)
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フレネル膜プリズムの『見にくさ』の一要因として、色収差が大きな割合を占めると考えられる。
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本実験では、被験者にMTF視標を見て判断してもらう自覚検査の形をとった。
自覚反応には、その人の教育程度、判断の仕方、過去の経験、今まで目が慣れていた習慣など、様々な要因が影響する。
普段、目の検査といえば思い浮かぶランドルト環や文字視標に比べれば、今回使用したビステック社MTF視標は、今までにない新しいタイプの検査だったため、被験者のもつそれらの要因の影響は、多少なりとも軽減する方向にあったと考えられる。
しかしながら、何度も視標を見せる事によって起こる練習効果を完全に取り除けたとは言えない。
これを抑えるために、できるかぎりの注意をはらったが、改めて自覚検査の難しさを知った。
色収差の感じ方は、各個人様々であり、それが苦になるかどうかについても、その人をとりまく様々な要因により違ってくる。
岡本氏はその要因として
@以前使用のレンズの度数やアッベ数
A側方視の多い少ない
B性格
C要求視力
D矯正視力(完全矯正に近いかどうか)
の5項目をあげている。
これらはどれも色収差に深く関係するが、中でも特にBの『性格』という心理的な問題は実際の現場で、よく直面する壁の一つである。
日常生活において『見える』と言う事に対して神経質でシビアな人にとっては色分散量が『δ≦0.12』という許容範囲内にあっても、その影響が感じられ、クレームの原因となってしまう。
このあたりの問題解決の為にもその人に適したレンズの選定と適切な説明が必要なのは言うまでもない。
最後に、本実験で得られたグラフ4−A〜Eの実際的な適用例について考えてみる。
たとえばレンズ交換のお客様が来店されたとしよう。視線の動きを見ていると、横目づかいで見ると言う癖がある。
その人が以前使っていたレンズのアッベ数は58、度数は−4.50、側方視した時のレンズ中心からの距離がおよそ2pだとすると、プレンティスの公式P=D・h(cm)より、側方視時のプリズムパワーが9となり色分散量は0.16となる。
0.16であれば、なんとか色収差を我慢していたと考えられる。
このお客様が今回はもっと薄いレンズを希望されたとする。
そこでレンズを薄くするために、アッベ数31のもの(高屈折レンズ)を使用した場合、これが同度数のものであっても、分散量は0.29となってしまう。
グラフ4を見ると分散が0.29の時には周波数の低い粗い縞では影響が少ないにしても、周波数が高い縞においてはその影響を大きく受けることになる。
また表6から、相当する視力は0.5まで低下するために、お客様は不満を抱くと言う結果になりかねない。
こんな場合、『薄さ』をとるか『見やすさ』をとるかは、非常に難しい問題となる。
また表7に±3.00〜±10.00Dの側方視の時に生じる色分散量を計算しておいた。
※印以外のところは色分散量が許容範囲外であると考えられるので、選択するフレームの大きさや頂間距離、視線の動かし方など十分考慮していただきたい。
これまで眼鏡レンズにおいては、『薄さ、軽さ』が最優先されていたため、あまり色収差の問題が重視されなかった様に思われる。
ところが最近この問題が再認識され、新しいレンズにおいてはアッベ数についても研究が進められている。
今後は、『質を追求する』という時代の流れにのってこの色収差についても十分考慮したよりすぐれた眼鏡レンズが、世におくりだされる事をおおいに期待したい。
謝辞
本研究を行うにあたり、プリズム製作の協力やアドバイスをして下さった(株)キクチメガネ商品部、加工技術研究室スタッフ陣、また、研究の初めから論文構成まで全般にわたり適切なご指導をいただいたキクチ眼鏡専門学校
戸村憲造教授、杉山忠男教授、伊藤克也講師、他同校教授陣、並びに被験者として気持ち良くMTF測定に協力してくれた同校研究員・学生諸君に心より感謝致します。
付録 薄プリズムの収差
薄プリズムに発生する色収差以外の収差は、非点収差、湾曲収差、歪曲収差の三つである。
これらは次式で与えられる。
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ここでは湾曲収差は中心窩よりずれた位置でわずかに発生するのみである。
また、歪曲収差は像の歪に関することにより、ぼけには関与しない。
よって中心窩において色収差以外に像に影響する可能性のあるのは、非点収差だけである。
ここでP=10Δ,n=1.5,d=0.005mのときの非点収差を計算すると、z(非点収差)=0.00002mとなる。
これを人の目に換算すれば、0.05Dでほんのわずかとなる。以上のことから薄プリズムの収差のうち色分散以外は無視することができる。