拉致・核問題と日朝交渉〜日本人からの発言

森 正孝

1.ただ一国だけど…
2.国交の樹立に向けて
3.「拉致」「反共和国」の大合唱…そして、在日朝鮮人への暴力!
4.「拉致・核問題」の背景こそ問題にせねばならない
5.「拉致問題」「植民地支配による強制連行=過去の清算問題」は別個の問題で
ある。それぞれの徹底解決を求める!

6.日朝国交交渉の正道=植民地支配の清算に立ち返れ!
7.日朝国交樹立は、まず最初の一歩!


1.ただ一国だけど…

 今世界には191の国(国連加盟国)(非加盟のバチカン市国を入れれば192・台湾は除く)がある。
 その中で、日本が国交を持っていない国は、いくつ、何国かご存知だろうか?
 ただ一か国、朝鮮民主主義人民共和国(以下共和国)だけである。
 因に共和国が国交を有する国は、151。40カ国がまだ国交を持っていない。その内の主たる国は、
日・米・韓・イスラエルそしてEUでは仏のみ。(南北双方が国交を有する国は147)
 日本の最も近隣に位置し、古来から歴史的関係の極めて濃い国と唯一つ外交関係がないという事
実は、まさに“異常”としか言いようがない。

2.国交の樹立に向けて

 背景はどうあれ、この異常さを打開すべく小泉首相は、9月17日突如ピョンヤンを訪問。金正日委
員長との間で国交樹立に向けた「ピョンヤン宣言」を発表した。
 そこでは
@日朝正常化交渉の再開の確認(交渉は、91年以来11回行われてきたが00年から中断していた)
A植民地支配によって多大な損害と苦痛を与えた歴史への痛切な反省と心からのお詫びの上にたっ
た経済協力。
B日朝は互いの安全を脅かす行動をとらない。共和国は、日朝の不正常な関係の中で生じた日本国
民の生命と安全に関わる懸案問題について適切な措置をとる。(拉致・不審船問題等の解決)
C東北アジア地域の平和と安定を維持、強化するため核、ミサイル問題等の安保上の問題の解決。
が確認され、本格交渉に向かうかに見えた。

3.「拉致」「反共和国」の大合唱…そして、在日朝鮮人への暴力!
 ところが、金正日委員長が拉致を認め、「生存者・死亡者」の発表、5人の帰国が続くと、日本のマス
メディアは連日連夜“拉致”報道と「極意非道な共和国」キャンペーンを、溢れんばかりにたれ流し続
けてきた。それは、2カ月過ぎた今もなお続いていることは周知の通りだ。
 そのさまは、「ジャーナリズムは、戦時中のような国民感情を作り上げている」(在日作家・金石範)
「今のマスコミは、昨年9月のテロ後の米国の9・11報道と全く同じ」(在日作家・梁石日)「メディア規
制法がなくても国家の統制は簡単にできるのだと思った」(ジャーナリスト・魚住昭)と言わしめるほど
である。
 その結果、在日朝鮮人に対するいわれなきイヤガラセ・暴力の嵐が全国で吹き荒れている。とりわ
け、民族学校(朝鮮中学・高絞)へ通う在日の子供たちのへの攻撃は、凄まじく、民族服(チマチョゴ
リ)を着て通うことは全くできなくなった。
 この地静岡市の朝鮮学校の子供たちも例外ではなく、朝夕、父兄のガードによる集団登下校を余
儀なくされており、12月に予定されていた在日歌手による歌謡ショーも中止に追い込まれている。ま
さに、関東大震災下の朝鮮人虐殺時のような民族差別排外主義が荒れ狂っているといっても過言で
はない。
 こうして、日朝国交への核心問題=≪過去の清算による平和・友好関係の樹立≫の問題はすっと
んでしまっている。この間のマスコミの責任は極めて重大である。

4.「拉致・核問題」の背景こそ問題にせねばならない

 私たちは、共和国政府に対して、拉致問題について、徹底した真相究明・情報公開・謝罪・責任者
処罰・再発の防止そして被害者への賠償を要求する。そしてこのような国家犯罪を行った共和国政
府の政治姿勢=“対南工作”という「革命的使命」の目的のためなら手段を選ばないという姿勢を、
根本的に改革することを要求する。
 しかし私たちは、共和国への一方的要求によって事足りるとは、断じて思わない。
 同時に、(核開発問題も含めて)これらの問題が、戦後冷戦構造の中で、日本・米国・韓国によって
作りだされた共和国への敵対・圧倒的軍事的脅迫包囲網政策によって生み出されてきたことを認識
しなければならないと考える。
 朝鮮戦争以降、日米は韓国を唯一つ合法政府とし、徹底した南北分断・固定化と「北」敵視政策を
継続してきた。その典型として、韓米合同軍事演習くティームスピリット>がある。
 「北」への上陸進撃・核使用攻撃を目的に、この26年間、20万人規模で、空母ミッドウエー・エンタ
ープライズ、20隻の艦船、B52核搭載重爆撃機、ランス核ミサイル、海兵隊グリーンベレーなどの出
動による地球上最大・最強の軍事的脅迫を行ってきた。
 浦項から上陸し、地空からピョンヤンに攻めのぼる作戦。“リュック”作戦と称して「北」の重要地点
に小型核爆弾を設置し、リモコンで爆発させる作戦。開城市にそびえる山の頂上めがけて核ミサイル
(実際は模擬弾を使用)を発射する訓練などなど…これらの出撃基地の大半は在日米軍(三沢・横
須賀・横田・岩国・佐世保・沖縄)にあり、まさに日米韓共同作戦でもある。
 これにより、共和国はこの26年間毎年、演習期間の60日〜90日間は非常事態宣言を発し、完全
に生産をストップさせ臨戦体制に入ることを余儀なくさせられるのである。まさに日米韓の軍事的圧迫
により、共和国が、恐怖のドン底に叩き込まれる日々を送り続けてきたであろうことは、容易に想像で
きる。
 事実、筆者が共和国訪問時、関係者から、「くティームスピリッツ〉期間中、ピョンヤン市内に限らず
共和国全土は、職場、学校、漁業などもすべて活動が停止され、国土防衛隊に組織される。全土は臨
戦体制下に置かれ、ひとびとは、極度の緊張状態に包まれる」との証言を得ている。
(因みに日米韓の軍事費総額は共和国の66倍、米国は56倍日本は7倍、韓国は3倍であり、軍事
大国アメリカとその同盟国が、束になって“弱小国”「北」を包囲・脅迫し続けてきた。「北」は、孤立無
縁の中…中・ロの軍事支援は90年以降全くない…身構え、対抗し続けてきたのである)
 これは、ほんの一例に過ぎないが、こうした敵対・脅迫政策が共和国によるく拉致・核開発>の背
景にあるのであって、この事実を一切不問にしての「北」への批判は絶対に許されない。この事実を
ひた隠すこの間のマスコミ報道は、この点でも犯罪的である。

5.「拉致問題」「植民地支配による強制連行=過去の清算問題」は別個の問題で
ある。それぞれの徹底解決を求める!


 一部の意見にある、く拉致>とく強制連行〉の相殺論、それらを相対化する論議(「そんなにく拉致>
を強調するのなら、く強制連行>こそ問題にすべきではないか」との論)は基本的に間違っていると
考える.
 同じ国家犯罪とは言え、その性格と規模を「比較・相対化」するには余りあり、不可能である。
 一方は、前述した戦後の敵視・脅迫政策の中から生まれた問題であり、く強制連行〉はまさに日本
国家が朝鮮国そのものを36年間破滅させ・併呑した国家犯罪の中で行われた犯罪なのである。そ
れぞれを別個の問題として徹底解決することこそ、日朝交渉の課題であると考える。

6.日朝国交交渉の正道=植民地支配の清算に立ち返れ!

 とはいえ、そもそも日朝国交正常化交渉は、一般的な国と国とが友好関係を結ぶものとは、性格
が異なる。そこには不正常にさせた原因=植民地支配の歴史が厳然と存在する。これをどう清算
するか。この問題こそ、91年以来11回の交渉の中心議題であった。
 日本側は大きく次の主張を繰り返した。
 「1910年の日韓併合条約は有効・合法的である。植民地支配をしたが、朝鮮とは交戦国関係に
はないため、国際法にある賠償規定は当たらない。したがって賠償ではなく経済協力で処理する」
 これに対して共和国は次のように主張。
 「日韓併合条約は無効である。対等平等な関係の中で結ばれた条約ではなく、日本軍隊、憲兵警
察による威嚇と脅迫の中で締結されたものであり、ウィーン条約にもそうした場合の条約は無効と
規定している。
 朝鮮では、一環して反日・抗日の義兵戦争や抗日パルチザン戦争によって日帝との戦いを行なっ
てきたのであり、国際法にいう民旗解放戦争であった。賠償を要求する。」

 この相いれない立場によって交渉は、頓挫していた。(途中から拉致問題も交渉議題に。共和国
は全面否定してきたのも原因。)
 しかし、前述の「ピョンヤン宣言」に見られるように、突然、共和国は、く賠償要求〉を放棄し、く経
済協力>で妥協した。しかし、前段にこのく経済協力>の精神く多大な損害と苦痛を与えた歴史へ
の痛切な反省と心からのお詫び>を入れたのである。(この点は1956年の日韓条約とは決定的
に異なる前進面ではあるが…)
 したがって、日朝正常化交渉にあたってのく経済協力>は、一般的な、例えばODAなどの経済協
力では断じてない。そこには過去清算=謝罪と賠償の意味がこめられたものであり、われわれ日本
側が果たさなければならない歴史的責任と義務に基ずくものであることを銘記すべきである。
 したがって、このく経済協力>に条件はない。“拉致問題の解決なければ、交渉はない”とか“あの
ような非道国家に経済協力はとんでもない”という言説は全く当たらない。何の前提も存在させては
ならず、無条件に推進させなければならない日朝交渉の核心課題なのである。

7.日朝国交樹立は、まず最初の一歩!

 日朝の国交が樹立されることの意義は、次のように極めて大きいと考える。
@国交がない(当然にも民衆の交流もない)ことによって生ずる、現に生じている偏見・差別・排外主
義を克服する。
A東アジアの「冷戦体制」を打破し、緊張緩和・平和友好志向への一歩を踏み出す。
B唯一つ残された戦争責任=植民地責任をとり、真の友好・信頼関係を樹立する。
 無論、国交樹立が即、東アジアの平和と安定につながるとは思わないが、まず<最初の一歩>であ
ることに違いない。
 この一歩を踏み出すことを通して、プッシュ政権の“悪の枢軸”政策=戦争政策を止めさせ、日本の
共和国敵視政策=有事法制を打ち砕き、日本国憲法前文・第9条にのっとった徹底した平和外交を求
める闘いへと発展させなければならない。民衆のこの営為は、必ずや「ピョンヤン宣言」を真の「東アジ
ア平和宣言」に作り変えることができるであろう。(了)