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フランク・シナトラ、「帝王」「ザ・ヴォイス」と呼ばれ、その影響力は芸能界のみならず政界にまで及んだと言われる世界芸能史上最大級のスーパー・スターです。しかし、あまりにもその存在がポピュラーで大きすぎ、よくて「マイ・ウェイ」のおじさんぐらいの感覚で特に若い層の方には聞かれることが少なくなっているのじゃないかと思います。
わたくしがフランク・シナトラを初めて作品として聴いたのは、何度か登場している第一次マイ・ジャズ・ボーカル・ブームの時でした。音楽之友社からジャズ系歌手をメインにポップスやR&B等幅広いジャンルのヴォーカリストを紹介している「ヴォーカリスト334」という本が出ているのですが、取りあえずこのガイドお薦めの『イン・ザ・ウィ・スモール・アワーズ』を購入してみることにしました。ブルー・バラード集として編まれた本作は、夜の街に佇んで静かに煙草をくゆらせるシナトラのジャケットが象徴するように「ムード・インディゴ」「アイ・ゲット・アローン・ウィズアウト・ユー」「恋とはなんでしょう」等珠玉のバラードを静かにじっくりと歌いこんだ作品。今聴くとその独特のダンディズムにしびれちゃうんですけど、何故だかその時はあまりピンとこなくて、「一応シナトラも聴いてみました」程度で終わってしまったのでした。
…で、月日が流れること5〜6年、中古屋で『マイ・ウェイ〜ベスト・オブ・フランク・シナトラ』というキャピトル&リプリーズ時代24曲入りのベストを見つけ、まぁベストぐらい持っていてもいいかもね、と何気なく手に入れたのがのめり込むきっかけとなったのです。もともとスタンダード好きというのもあるんですけど、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」や「ムーン・リバー」「誰にも奪えぬこの思い」などの定番から、「夜のストレンジャー」「恋のひとこと」「ニューヨーク・ニューヨーク」などのシナトラ’ズ・ヒット・ナンバー、軽快にスウィングする「アイ・ゲット・ア・キック・アウト・オブ・ユー」「レディ・イズ・ア・トランプ」、ボサノヴァの「イパネマの娘」、ポップ・ヒットの「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」「リロイ・ブラウンは悪い奴」等など盛りだくさん、スケールがとてつもなく大きく、粋でかっこいいシナトラの世界をかいま見てしまったのでした。こうなると後はいつもの如く、出かける先の中古屋さんに寄っては手ごろな値段で手に入るアルバムを引き取り引き取り現在に至っております。しかし、これだけキャリアが長いと集め甲斐があるんです。そこがまたね、楽しかったりするんですけど。
シナトラにはいくつかの転機があって、その時代時代で味わいもまた違うので楽しみ処もいっぱいです。シナトラがデビューしたのは1930年代ベニー・グッドマンやカウント・ベイシーなどが活躍したビッグ・バンド全盛の時期。シナトラもハリー・ジェームズ楽団やトミー・ドーシー楽団の専属歌手としてデビューし評判を高めていきます。この時代と独立しソロ歌手として最初の大成功を収めるコロンビア・レコード所属の時代は、ボビー・ソクサー達(熱狂的な女子学生ファンをこう呼んだそうです。)をとりこにした、甘い声でソフトなバラードを得意とした時代です。私生活上のスキャンダルや過密スケジュールによる疲労から声が出なくなるアクシデント等が重なり一時人気が低迷、レコード会社の専属契約を失うなどつらい状況の中で起死回生の一打となったのが、決死の思いで手に入れた映画「地上より永遠に」(53年)のマジオ役でのアカデミー最優秀助演男優賞の受賞でした。復活の波をつかんだシナトラが本業の歌手として再出発すべく契約したのが当時新興のレーベルだったキャピトル・レコード。ここでシナトラは名アレンジャーネルソン・リドルやゴードン・ジェンキンス、ビリー・メイらに出会い、次々と傑作を発表していくことになります。甘さが全面に出た歌声だったのが人生の辛苦をなめた経験からか歌に深みや渋みが加わり、心揺さぶるバラードや最高のスウィング・ナンバーなどもうごろごろ転がっている状態です。7年在籍した後、考え方の違いからシナトラはキャピトルとの契約を破棄、61年に自身のレコード会社リプリーズを立ち上げます。映画スターとしての俳優業、ラスベガスでのディーン・マーティン、サミー・デイビス・ジュニアなどラット・パックと呼ばれた自身の仲間とのショー等、40代半ばを向かえ精力的に活動を繰り広げたこの時期は、カルロス・ジョビンとのボサノヴァ集やオールスターによるミュージカルものなど企画ものも多く、「夜のストレンジャー」や「恋のひとこと」等No.1ヒットも生み出し更にスケール・アップした歌声を聴くことが出来ます。71年55歳の時に一度芸能界を引退。73年に復帰した後はステージをメインに活動し、数は減ったもののさすがの貫禄で聞かせる作品をいくつか残しています。そしてシナトラは98年、ロサンゼルスで82歳にてその生涯を閉じました。
シナトラの魅力…初期の甘ずっぱいバラード/キャピトル以降の絶望的な寂しさや人間の哀感を漂わせるバラードに高揚感満点のスウィング・ナンバー、スタンダードを中心にシャンソン、ポップス、ボザノヴァ、ミュージカル等幅の広いレパートリー、そして歌の背後にそそり立つ圧倒的なドラマ性、これだけ歌の中に「人生の哀歓」を感じさせる歌手は、他にいないのではないでしょうか。はまると・・・大変ですよ。
おすすめ:ベストを含めれば百枚単位の作品を残しているシナトラ。わたしもまだまだカバーしきれていないのが現状です。コロンビア時代のソフト・バラードも大好きですし、キャピトル・リプリーズは名盤だらけ、最後期の枯れた味わいも捨て難いです。アルバムで一番気に入っているのはキャピトルでのブルー・バラード集『ホェアー・アーユー?』。丁度私生活でエヴァ・ガードナーとの破局を迎えつつあった時期でもあり、「枯葉」「ローラ」「恋は愚かというけれど」など、抑えた表現の中に悲しみが滲み出るような名唱の数々に涙すること請け合いです。曲では各種ベストに収められているアカデミー賞受賞曲、美しく、大きく、哀切な「オール・ザ・ウェイ」が今のところの一番。ジュリア・ロバーツ主演の映画「愛の選択」でも効果的に使われ、わたくしにとって忘れることの出来ない1曲になっています。(セリーヌ・ディオンがベストで擬似デュエットしているので、聴いたことある方が多いのではないでしょうか?)取りあえず2枚組ぐらいのキャピトルを中心にしたベスト盤、聴いてみてほしいですね。
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