ハト
牛浜ペットクリニック   野村 治



1・ハトとは?
ハトとはどんな生き物であろうか? ハトの一般的イメージとしてドバト、伝書鳩、キジバト、手品の白鳩などが思い浮かぶが、ハト目ハト科Columbidaeの総称としてハトと呼ぶ。
この科の鳥は、極地と砂漠を除いた世界のほとんどの地域に分布して42属290種に分類されている。ハトは、嘴の基部に蝋膜か鼻瘤(びりゆう、はなこぶ)があり、食性は種子、穀類や果実を主食とし、大量の水を飲み、他の鳥と比べて吸引しながらゴクン、ゴクンと飲めるのが特徴である。ニワトリのように口に水を少し含んで、頭を上げてそ嚢に落とす飲み方と違う。またヒナをピジョンミルクというそ嚢壁から分泌される分泌物で育て、しかも雄からもこのピジョンミルクが出るのも特徴である。親からヒナヘの給餌方法は、ヒナが親の口の中に嘴を入れて、ミルクや餌をもらう。ニワトリのように生まれてすぐに、自分で餌を取ったり、多くのヒナが大きな口を開けて、餌をねだるのとは異なる。
以下は町角に普通に見られるハトについて記載する。公園、広場、駅前、神社などにいるハトは、ドバト(土鳩、堂鳩とも書く人もいる)と呼ばれ、最近では糞公害や、ハトの糞で増殖するクリプトコッカスの感染症が人畜共通感染症として問題になってきている。

2・カワラバトと人の歴史
もともとこの鳥は、地中海沿岸や中近東にいて、正式には河原鳩(カワラバト)と呼ばれている。名のとおり河原の岩場を営巣場とし種子や穀類を主食とするので、ヒトのいる所には馴化し易い性質をもっていた。比較的ヒトとの付き合いは長い。人類が家、倉、神殿などを作ったとされる8000年以上前には、これらの建造物に営巣したとしても不思議ではないであろう。ノアの箱舟の旧約聖書が書かれた時代には、すでにカワラバトの帰巣本能の能力が分かっていたようである。この性質を利用して、ギリシャ時代には、戦地からの戦況報告や、漁師が舟からの漁や帰港の報告などに使っていたようである。第一次・第二次世界大戦でも、有線無線は敵に傍受される危険があるので、ハトによる移動、固定鳩舎を使った通信手段は重宝されたようである。
日本でもヨーロッパからハトを輸入し、戦時通信用として飼育と訓練をした。技術の未熟さか鳩質の悪さか分からないが、思ったほどの成果を上げることができなかったようである。靖国神社に軍用犬、軍馬とともに軍鳩が祭られていることは、あまり知られていない。
ハトの歴史を語るには、やはりヨーロッパを無視できない。1番のカワラバトから彼らは多くの品種を作りだし、実用や遊びに使っていた。ある時代には、ハトは重要な食糧であった。体が小さいので、肉は少ないのであるが手間がかからず、病気にもかからない丈夫な点と、1回の繁殖では2つの卵しか生まないが、春から秋にかけて長い繁殖期間がある。ほうっておけば、かってに増えてくれるので、塔のようなハトの家を作って、必要な時に捕まえて料理したようである。一時期、アメリカ合衆国でも、平地の鳩農場で肉用のハトの繁殖が盛んに行われた時があったが、今では、アメリカ人はハトを食べる習慣を止めたようある。一方、フランスやアラブ諸国では、今でも重要な食材になっている。レース鳩のメッカであるドイツ、ベルギ一、オランダでも食用になっていたようであるが、最近では、ほとんど食べなくなってきているようである。
伝書鳩の由来は、通信手段、特に新聞社には鳩舎があり、記者が地方に行くときには、籠に入れたハトを持って行き、記事やフィルムの輸送に活躍した。ちょうど、今の記者がコンピューターと携帯電話を持っているような感覚である。また、牛の精子の輸送にも使われていた。第二次世界大戦後は、趣味としてのハトの飼育が盛んになった反面、通信輸送機関の発達とともに実用としてのハトの用途は低下した。レース鳩の楽しみは広く知られているが、日本ではあまり馴染みはないがこのほかにも見て楽しむ鑑賞鳩(変わった羽根や形)、背中に笛を付けて飛ばしその音色を楽しむ鳩笛、様々な飛び方の曲芸を楽しむ等の多くの楽しみ方が開発されている。
ドバトと思ったハトが、様々に見えてくる。水の飲み方一つでも、話ができる。ハトは人によくなれるので手乗り鳩にするのも簡単である。

3・ドバトとレース鳩の違い
一般にレース鳩は、骨格が太くがっしりしていて、いかにも強健そうに見える。脚も太く、嘴も短く太く、鼻瘤も大きいのが特徴で、能力的には帰巣性や飛翔力はドバトと比べ何倍も強い。ドバトとレース鳩を簡単に見分けるには、脚環があるかないかによって判断できる。脚環があるのがレース鳩である。通常2つの脚環をしておりID番号(生まれた年と協会名と協会の連続ナンバーが書かれている)と私製環(持ち主の住所や電話番号が書かれている)の脚環が両足にはまっているので、だれにでも分かる。ドバトの群れにレース鳩が稀に入っていることがあるが、レース鳩はドバトといっしょに生活できない。生まれてから自分で餌を探したことがないのと、食べ物が違うからである。自分の鳩舎に帰れないレース鳩は、他の鳩舎に入るか、弱って他の動物、例えばカラスや猛禽、猫などの餌食になったりすることも多い。
もし脚環のある迷鳩を保護した場合は、本項末尾にある協会に電話して飼い主を探してもらいたい(宅配便が引き取りに来て、飼い主に届けるシステムもある)。

4・飼育環境について
鳥一般にいえることであるが、風通しが良く日のよく当たる場所が最適である。日陰で風通しの悪い場所での密飼いは、病気の発生率が高くなる。また、繁殖つがい率の高い鳥なので、すぐに番になって子供を際限なく作り、密飼いになり環境が悪化する。1坪、畳2枚の広さで40羽が限度である。ハトは集団を好むが、十姉妹と違い、番以外は隣同士くっつくことを嫌うので、顔を合わせないように板で仕切る必要がある。また、丸木の止まり木より板の方が落ち着くようである。同じ鳩小屋のハトにも順位があり、上位のハトが上部のお気に入り場所を取る。しばしば場所取りの喧曄をするが、順位と自分の定位置が決まれば落ち着くようである。夏の直射日光下においても日陰があれば、日射病になる心配はない。

5・飼料と飼育機材
餌は種子類、穀類が主でトウモロコシ、ムギ、ダイズ、コメ、ナタネ、アサの実等を与える。こだわらなければ、ペットショップ等で混合された餌が購入できる。イヌやネコ用の食事が子犬・子猫用、成犬・成猫用、老犬用その他病気療養食と分かれているのと同様に、繁殖期用の高カロリー食で発情を促し、幼児食の高タンパク食で丈夫なヒナを育て、レース用の高脂肪食でレース成績を高め、レース休止期間用の低カロリ一食で無駄なエネルギーの蓄積を防ぐような食事もある。
副食として週に2−3回は、コマツナ、サラダナ、チンゲンサイ、ニラなどの緑色野菜を与える。野菜は、人が食べられるものであれば基本的には何でもよいが、ホウレンソウはあくが強いし、キャベツやレタスは栄養価が低い。また、忘れてはならないものとして、鉱物飼料(塩土、ボレー)がある。赤土、レンガ粒、塩、牡蛎殻、砂粒と水を加えて混ぜ合わせ乾燥させて自分で作ることも可能だが、高価ではないので市販品を買った方がよい。飲水器は、糞が入らないないように工夫されたハト専用のものがある(ペットボトルを工夫して作ることも可能)。餌入れは、必ずしも必要ではないが、清潔を考慮するなら使用すべきである。市販のものを利用することもできるし、自分で作ることもそれほど難しいことではない。巣皿、巣箱も自分で作ることはできるが、市販品も購入できる。

6・カワラバトの寿命と繁殖
大切に飼われたレース鳩では20歳以上25歳も生きるハトもいるが、普通はイヌ・ネコと同様に12一15歳ぐらいの寿命である。
繁殖は雌で10歳、雄で12一13歳が限度である。丈夫なハトを繁殖したいのなら、雄雌ともに2−8歳ぐらいが適当であるが、6カ月以上であれば繁殖は可能である。見た目では雄雌の区別はつきにくいが、雄はハト特有のディスプレイ、尾羽を広げ床を掃くように胸を膨らませて、ウグクックウとダンスして雌の関心を引こうとするのですぐに分かる。
雄雌を狭いケージか巣箱に閉じ込めておけば、最初は喧嘩をするが、そのうち仲良くなり番となる。どちらかが死んだり、いなくならない限り一生連れ添う。普通卵は2卵生み、1卵生んで1日おいて2卵めを生む。抱卵を始めて、18日で黄金色の産毛に包まれたヒナが誕生し、通常は雄と雌であるが例外もある。繁殖を抑えるには、偽卵を抱かせる、巣皿を取る、巣箱を閉める、雄雌を分ける、配合飼料に大麦を加え栄養価を下ける等の方法がある。
ハトは栄養状態さえよければ、年中発情して繁殖する。日本では通常、2−5月に繁殖させると良いヒナが取れるといわれている。年間を通して繁殖が可能だが、親が消耗するので、仮母を使わなければ年2−3回の繁殖で止める。

7・楽しみ方
見て楽しむ、飛ばして楽しむ、増やして楽しむ、とカワラバトの楽しみ方は様々である。この鳥の特徴は、帰巣性にあるので、飛ばして鳩舎に帰すのが一番の醍醐味であろう。
またこの鳥は、人によく憤れるので、野外でも肩や手に乗せて手乗り鳩にする楽しみもある。野外で逃がしても自分の鳩舎に帰ってくるので、他の手乗りとは違った楽しみ方ができる。

8・ハトの扱い
通常は、片手で人差し指と中指の間か、中指と薬指の間にハトの両足を挟み、親指を背中に回し羽根をたたんだ状態で雑巾を絞るようにハトをつかむ。残った反対の手でそ嚢部を包み羽根を開かかせないように押さえる。また慣れてくれば、羽根を持つ方法もあるが、見た感じがよくない。

9・診察
診察は、他の動物と同様にヒストリーを聞き、一般身体検査、体重測定、血液検査、検便、そ嚢の検査、レントゲン検査等を行う。インフォームドコンセントも重要であるが、うまく取れないのが実情だ。通常は、トリコモナスの検査、検便と体重測定に重点を置けばよい。またニワトリの診療と同様に群れの管理も重要である。

10・治療
治療は、温める、食べさせるが基本となり、これが治療の80%で、抗生剤、駆虫剤等の投与が残りの20%である。鳥は恒温動物で平熱も40℃以上ある。体温が低下すれば、食べた物も消化吸収できず小さな鳥は肝臓での蓄えも少ないためエネルギー不足になり餓死する。逆に食事が摂れなくなると、エネルギーの供給ができなくなり、体温も低下して死亡する。治療で温めて強制給餌するのは、凍死、餓死を防ぐためである。
鳥の治療の定石は、診断重視より状態重視である。診断は確定しないことも多いが、死なせない方向にもって行きながら、治療を行い診断する。決して病気の診断へと焦らないことが重要である。
もし不幸にも死亡した場合には、残されたハトのためにも病理解剖を積極的に行う。

11・ハトの一般的な病気の症状診断治療予防チャート
表1参照。

12・学校飼育鳩の診療ポイント
「視診、問診」
(他の鳥類の項を参照)
環境:
1坪40羽以上いないか?日当たり、風通しが良いか?
食事:
水入れ餌入れが汚れてないか?餌は適量か?(1羽1日15−40g)餌のバランスは?湿ってないか?保存状態は?虫が発生していないか?副食を与えているか?野菜(週2回)、鉱物飼料(常時)、塩土(常時)
一般状態:
隠れて観察すると寒くもないのに膨らんでないか?元気、食欲があるか?
便:
下痢、緑便、水便がないか?



表1 ハトの一般的な病気の症状診断治療予防チャート

病気の種類---症状---診断---治療---予防

毛細線虫(鞭虫)---徐々に痩せて死ぬ---浮遊法検便---フルベンタゾール、アイバメクチンほか---定期的検便
回虫---下痢削痩---浮遊法検便---パモ酸ビランテルほか---定期的検便
トリコモナス---元気がない---そ嚢の検査---チニタゾール、メトロニタゾール---定期的検査
コクシジウム---下痢---浮遊法検便---サルファ剤---定期的検便
ハジラミ---羽根を気にする---羽根の視診---カーバメイト系の駆虫剤---定期検診
ワクモ---夜、騒ぐ---夜間診察---カーバメイト系の駆虫剤---定期検診
ニューカッスル---水便、首の反転---抗体検査---生ワクチン投与---ワクチン
ポックス(鳩痘)---嘴、目の周囲の腫瘤---視診---生ワクチン投与---ワクチン
サルモネラ---急死、歩行障害、羽を下げる---症状で推察---淘汰、抗生剤の投与---隔離、淘汰
マイコプラズマ---鼻瘤の汚れ鼻水---症状で推察---エリスロマイシンほか---環境改善
クラミジア(オウム病)---片目の炎症---症状で推察---テトラサイクリン系---環境改善
そ嚢の裂傷---そ嚢の外傷、汚れ---視診---水が漏れない程度に縫合---なし
羽根の単純骨折---羽根を下げる---視診レントゲン---テープで固定---なし
足の単純骨折---足を使わない---視診レントゲン---テープで固定---なし





「診察」
・ 体重を測定する(栄養状態が通常の60%以下だと助からない)。
・ 直接、浮遊法検便をする。
・ そ嚢液から、トリコモナスの検査をする。
・ 必要であれば、血液検査、レントゲン検査等を実施する。
・ 必要であれば、入院治療をする。

「入院」
餌:
ペットショップでハトの餌を買えばよい。鉱物飼料が必要(塩土とプラスリン)。
入院設備:
止まり木は要らない。ケージの中に、レンガ等を置き少し高くなっている場所を作っておけば落ち着く。インキュベーターの中がいいが、できなければ、ホットスポットライト、電気ヒーターを工夫してもよい。簡易の温室を利用するのが便利である。具合いの悪いハトは、まず暖めて次を考える。食べなければ経口輸液、強制給餌をする。ハトの診療は、じっくりやる方が結果が良い場合が多い。レース鳩は、体力があるが、ドバトは弱い傾向にある。

13・麻酔と外科処置
鳥は体温が高く感染には強いが、麻酔には比較的弱い。消毒にあまり時間をかけないように、手術時間はなるべく短くする工夫が必要である。準備に充分時間をかけ、手術、麻酔時間の短縮を心掛ける。イヌやネコの麻酔で呼吸が停止しても心停止が起こるまでに時間があるが、鳥は呼吸停止後すぐに心停止するので、イヌ・ネコより真剣なモニターが要求される。イヌ・ネコに比較して体温の低下に対するリスクも高いので、必ず保温して手術しなければならない。ハトのそ嚢の裂傷、骨折のテーピングなどの簡単な外科処置は、保定さえしっかりしていれば麻酔の必要はない。タカ、ネコ等の動物からの外傷は1週間以内に敗血症で死亡することが多いので最新抗生剤の投与等の注意が必要である。

14・人とハトの病気の関係
ハトからヒトにうつる可能性のある病気としてクリプトコッカス、クラミジア、マイコプラズマがある。免疫機能が低下している人や、抵抗力の弱い老人、小さな子供の接触は注意が必要である。クリプトコッカスは、ハトの糞がよい培地になるが、健康な人ならどこにでもあるこのような真菌に感染することはない。同様に、ほとんどのハトはクラミジア、マイコプラズマ陽性であるが、マスクをして鳩舎に入る、ハトを触った後は必ず手を洗うなどの常識的なケアで問題はない。もしも風邪のような症状が続いた場合で、ハトとの接触があった場合には、医師にその旨を伝え、クラミジア、マイコプラズマのことを少しは考慮した方がよいかもしれない。しかし、それほど神経質になる必要はない。可能性が高い問題は、アレルギーあるいはアトピーかもしれない。ハトの糞やハトの体からでる脂粉などが原因となって、喘息、アトピーやアレルギー症状を訴える可能性は現代病としてかなり高い。



表2 薬剤と薬用量

薬剤---投与量

パモ酸ピランテル---5mg/kg
ピペラジン---50-100 mg/kg
レハミゾール---10-20 mg/kg(3日間)
アイバメクチン---0.2-0.4 mg/kg
チニタゾール---100 mg/kg(2日間)
メトロニタゾール---50-60 mg/kg(1週間)
サルファジメトキシン---50-60 mg/kg(1週間)
プラジクアンテル---5 mg/kg
ニユーカッスルワクチン---予防:10ドース以上、治療30ドース以上
鶏痘ワクチン---予防:歯ブラシで塗布、治療:0.1ml筋注
アミカシン---5-10 mg/kg(12時間)
ドキシサイクリン--- 5mg/kg
テトラサイクリン---20 mg/kg飲水
エリスロマイシン---5-20 mg/kg飲水
タイロシン---10-40 mg/kg飲水
セフォタキシム---10-30 mg/kg(12時間)
エンロフロキサシン---2.5-7.5 mg/kg(12時間)
ケトコナゾール---5-10 mg/kg(12時間)



15・薬剤と薬用量
表2を参照。

16・ハトの協会
日本鑑賞鳩登録協会
〒413‐0102
熱海市下多賀湯ケ洞1703番5号
TEL:0557-67-1635

(社)日本鳩レース協会
〒110-0007
台東区上野公園17番11号
TEL:03−3822-4231

(社)日本伝書鳩協会
〒100-0004
千代田区大手町1丁目7番1号読売新聞社内
TEL:03-3270-7150


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